第37話 私はしたい!

 ガネッツは言った。


「お前等、リオンの事どう思う?ちょっと、怖くねえ!」


 ガネッツの横にはチャット、ヒューゴ、リナがいる。

 学校の帰り道、ヴェル達と別れた後、軽い気持ちでガネッツがそう言って来た。


「あ!解るかも!俺もちょっと、思ってた!」


「だよな!」


 ガネッツとヒューゴはお互い、指を指して笑った。


「あんまり、人の彼女の悪口言うの良くないよ?」


 チャットが二入をたしなめるとガネッツはチチチと指を左右に振った。


「いや、別に悪口とかじゃあねえって!なんていうか~、もっと、根本的な話してんだよ!本能的な?」 


「ああ、俺も別にリオンの事、嫌いじゃない。けど、近くに行くと、捕食されるような恐怖が込み上げてくる‥」


「それを悪口って言うんだよ!お兄ちゃん達!」


「やべえ!チャットが怒った!でもよ、‥もし、もしもだぞ!リオンが竜人だったらどうする?いや、角はねえよ。けど、あの赤い目と怪力だ!あれはどう、説明する?やっぱり、リオンは竜人だろ!」


 ガネッツが同意を求めてくる。

 その話を聞いてリナは怒りが込み上げてきた。

 意を決したリナはまず、ヒューゴの背中に隠れてから強く抗議した。


「りゅ、りゅ、竜人だったらなんなの?だ、だって、リオンちゃん何もしてないよ!毎日、窓の外を眺めてるだけだよ!そんな、竜人見た事ないもん!竜人はもっと、狂暴で、女性に乱暴で!いっぱい人を殺す奴等だよ!リオンちゃん、何もしてない‥」


「驚いた。リナがここまで感情を高ぶらせるなんて‥ていうか、俺の背中から出て来て言えよ?」


「僕もリナお姉ちゃんに賛成だよ!だって、吹雪おねえちゃんも仲良くしてるし、問題無いと思うよ?」


「じゃあ、もし、リオンが竜人だったらどうするよ?これから、人を襲う可能性は無いって事はないだろ!」


「そうだけど‥でも、僕は吹雪お姉ちゃんが仲良くしてるなら、リオンお姉ちゃんを信じるよ!」


「わ、私はリオンちゃんが好き!」


「いや、だから、好き嫌いの話じゃなくてだな!」


「ガ、ガネッツ。そういう話だよ!そういう話をしてるんだと思う。私はリオンちゃんが竜人でも傍にいたい!だって、好きなんだもん!リオンちゃんと一緒にいると楽しいし、面白いよ!もっと、もっと、お話がしたい!」


 リナは感極まって泣き出してしまった。


「おい、泣くなよ。あ~まあ、なんだ?‥確かに、恐怖は感じるが身の危険を感じたってわけでもねえしな~?」


 ガネッツは頭を掻いて恥ずかしそうに目を逸らした。


「リナがそうしたいなら、俺はリナに習うよ」


「ヒューゴ‥ありがとう」


「だから、俺の制服で涙を拭くな!シワになる!」


 ヒューゴの背中で涙を拭くリナの手が止まる。


「へへ‥ごめんね。目の前にいい布があったから‥つい?」


「これで、解決だね。もし、リオンお姉ちゃんが、竜人だったとしても、皆、一緒にいる‥でいいんだよね?‥へへ、なんか、うれしいな。皆と一緒にいられるんだね!よかった~!」


 チャットの喜ぶ顔を見てガネッツはチャットの暖かい頭を撫でる。


 「――って話があったんだよ。へへ」

 

 教室の後ろでリナはリオンの隣に座って一方的に喋っていた。

 

「そうか‥」


 リオンは困惑した様子でリナの話を聞いていた。


「あ、ゴメンね。私が一方的に喋って?つまらなかったかな?」


「あ、いや、そうじゃない。ただ、リナ、お前、よく喋るな。もっと、無口なヤツだと思っていたぞ?」


「え?そ、それは、リオンちゃんだからだよ!なんか、リオンちゃんといると安心するんだ。なんでかな?」


「知らん!」


 リオンはほのかに頬を赤らめリナから目を逸らした。

 その仕草がリナには刺さったらしく、悶えて気絶しそうになった。


「こ、これは!可愛い~!ヴェル君がリオンちゃんにハマる理由が解っちゃったかも?」


「イチイチ五月蠅いぞ!全く、これで何度目だ?あんまり、可愛いとか言うな!その、‥どう、反応していいか解らん。正直、困る」


 最近、可愛いと言われて腹が立たない。

 寧ろ、嬉しいと思い始めている。

 船上都市ノアに来て、オシャレを覚え、彼氏が出来たからだろう。

 もっと、ヴェルに見てもらいたい。

 興奮してもらいたい。

 可愛い自分を見てもらいたい。

 そう、思うようになった。

 すべてはヴェルのせいだ!

 ヴェルが私を変えてしまったのだ。

 ‥ヴェル。


 リオンは無意識にヴェルの姿を目で追っていた。

 ヴェルの事を考えるだけで、胸が苦しくなる。そして、津波のように押し寄せる罪悪感。

 ヴェルの傍に行きたいのに、素直になれない。

 何度も、ヴェルの背中越しに手を伸ばしたが息が詰まって諦めた。

 最近、そんな事ばかりだった。

 もう、心の中では許してるのに、歩み寄れない。

 そんな自分が嫌になる。


「なあ、リオン話があるんだけど?」


 ヴェルは緊張した面持ちでリオンの前に立った。

 勿論、リオンは嬉しくない訳が無い。

 話かけてくれた!歩み寄ってくれた!嬉しい!

 リオンの心音はトキメキ、そして、高揚した。

 今直ぐ、飛び付いてヴェルと抱き合いたいのに、体と心は分離した。


「‥わ、私からは無い!」


 リオンはヴェルの顔が見れなかった。ソッポを向いて目線を床に落とした。


「‥わかった。悪かった」


 ヴェルは肩を落として席を離れてしまった。

 リオンの顔は青ざめ机に顔を伏せた。

 ゴン!とおでこが机にぶつかる音がした。


「リオンちゃん大丈夫?凄い音したよ!」


‥また、やってしまった!馬鹿か私は!何でこうなる?


「リオンちゃん‥?」


 リオンは顔を伏せたままリナに質問した。


「リナ相談がある!聞いてくれ!」


「え!リオンちゃんが私に!え、あ、う、うん!ど、どうぞ!」


「ヴェルとしたい。どうしたらいい?」


「‥‥‥ん?え~と、ちょっと待って?聞き間違いかな?アハハ」


リオンは真っ赤な顔でリナの両肩を鷲掴みした。

流石のリナも恐怖した。食べられる!そう思った。


「ヴェルとしたいと言ったのだ!アイツの肌が恋しい!アイツの手でこの胸を触っ―――モゴモゴ!」


「待って!解ったからホントに止まって!」


 周囲がざわついた。リナは急いでリオンの口を両手で塞いだ。

 リオンも興奮してしまった自分を押さえようと呼吸を整えていた。

 いい?離すから抑えてね?と言ってリナは手を離した。


「そ、その、私、男性経験ないから、どうしたらいいか解らない。ゴメンね?」


「そうか‥」


「いいな~、私も彼氏欲しくなってきちゃった!」


「いるだろう?ヒューゴが!」


「あれは~‥違うかな?親友‥?友達?う~ん‥あ!そうだ!戦友だ!うん。そう!彼とは戦友だよ!」


「そうか、戦友とはしないのか?」


「し!しないから!もう~」


 アライザにも、相談してみた。

 じゃあ、寝込みをおそえばいいじゃない?だった。

 馬鹿者!参考にならないにも程がある。それが、出来れが悩まない。

 おかしい。少し前なら、確かにアライザの言う通り、そうしてた。

 無理やり、手足を抑え付けてヴェルの了解などお構いないでGOした。

 なのに、怖くて出来ないのだ。


 ――え?怖い‥だと?


 竜人の私が人間に恐怖しているというのか?いや、いや、あり得ん!

 しかし、事実、私は恐怖している。

 どうして?解らない。

 そして、疑問を抱えたまま、魔法闘武会が始まった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る