第18話 狙われる遺物

 アハハ、今日も寝坊した。

 ダバンはネチネチと嫌味を言って来るのだが、ヴェルにはそれが男の勲章のように誇らしかった。

 だってそうだろう。リオンとアライザが寝かせてくれないのだから。ワハハ!

 アレから漁に出る時は、危険を顧みず、港町ラカンから離れた場所で仕事をするようになった。

 この船にはリオンがいるので、大型の高級魚がわんさかと獲れるからだ。

 なになに、ヴェルは?

 仕事は勿論しっかりやる。と言いたいが、ヴェルよりリオンの方がこの仕事を張り切っているのでヴェルは傍観する以外やる事がなかった。

 何でも、人生で始めての仕事が楽しいらしいのだ。

 まあ、部屋に閉じ込められた毎日を送ってればそうなるのだろう。だから、本人が楽しいと言うのなら何も言う事はなかった。

 ただ、帰りの船はカイエンのセクハラが止まらない。


「リオンちゃんって竜人なの?この前、看病した吹雪ちゃんがリオンちゃんの事、竜人だって叫んでたけど?」


「喋りかけるな。けがわらしい!」


「へ~ホントなんだ!俺って優しいだぜ。言いふらさないから、俺と一杯付き合えよ!」


「なんだ、脅迫か?」リオンはカイエンを睨む。恐れないカイエンは、リオンの耳に口を近づけて囁いた。


「ばっかだな~そんなんじゃねえ。ただ、誰かのせいで、ヴェルとの関係が、終わるかもな?ヒヒ‥」


 溜まり兼ねたリオンはカイエンを殺そうとしたが、ヴェルが止めに入って事なきを得た。

 リオンはヴェルの後ろに回って抱き着いて来た。ヴェルの背中に胸を押し付け脇から覗き込んで言った。


「私とヴェルは身も心も1つだ。気持ちも確かめ合っている!お前が入る隙など一切ない。触るな。近づくな!無礼者が!」


 カイエンは血が混じった唾を吐いて船の端っこへと移動した。その背中は惨めでジュークは流石にカイエンが可哀そうに見えたので励ましに行った。


「ほっときなよ!あれはカイエンが悪い」とリビアは冷たい目線をカイエンに向けて言う。


「まあ、そうだが‥」とジュークは困った顔をしてオドオドしながらカイエンの元へ行き隣に座る。


「ゴメンね、リオン。カイエンの馬鹿のせいで嫌な思いさせちゃってさ!」


 リビアがカイエンの代わりに謝って来た。


「フン。その通りだな。ヴェルがいるから一緒にいるのだ。そうでなければ誰があんな男と一緒の船に乗るものか!クズめ!」


 といいながら、リオンはヴェルの顔を覗き込む。どうやら、頭を撫でてもらいたいらしい。

 あれからリオンは人前でも甘えて来るようになった。取りあえず、頭を撫でたがリオンは不満の顔を見せた。

 違った。もう一段上の要求だった。キスして欲しかったようだ。

 リオンは軽く脇腹を突っついてきた。流石に人前でのキスは恥ずかしいのだが。

 本能に忠実な竜人は時と場所を弁えない。欲しいときに欲しいだけねだって来る。  

 でも、それが可愛い!

 つい、ヴェルはリオンを甘やかしてしまう。リオンにとっては初めて甘えられる相手だから、加減が解らない。ついつい、突っ走ってしまうのだ。

 なので、いつまでも、キスしてこないヴェルに苛立ち我慢出来なくなってリオンからキスをしてしまった。

 その行為にヴェルはびっくりしたが、リオンも恥ずかしくなってしまった。リオンは急いでヴェルの背中に隠れた。真っ赤になったリオンは自身の唇を手で押さえて心音をときめかせた。

 ヴェルにはその鼓動が自身の心音となって伝わってくる。恥ずかしいのならしなければいいのにと思ったが、もう、ホントに、そこが可愛い~!

 ヴェルは下半身をたぎらせ、帰ったらリオンを無茶苦茶にしてやると心に決めたのだが、後ろからリオンの小声が聞こえる。


「‥馬鹿」


 アハハ。どうやら、感情が流れたようだ。後ろにいるリオンは人差し指でヴェルの背中をススッとなぞってきた。『OK』らしい。

 帰ったら忙しくなるぜ!と思ったが1つ忘れていた事があったので、先ずはそれを済ます事を優先させた。

 それは先日、古代遺跡で見つけた遺物の換金なのだが、吹雪の漂流で、すっかり忘れていた。

 このままでは、重罪に処されるので急いで港町ラカンの中心にある漁業組合へと足を運ぶ。

 換金用カウンダ―の前に立つと不愛想なおばさんポリーがジロリと見てきた。

 

 「何だい?此処はガキの来るとこじゃないよ?此処は命知らずの馬鹿共が並ぶ受付口だ。子供は帰って早く寝な!」


 ポリーは新聞を広げてヴェルを無視した。ヴェルは若干苛立ったが、ヴェルより先にリオンが爆発した。おい。そっちかとヴェルは焦った。


「貴様!そこに直れ!ひき肉にして丸めて、竜の口にほおりこんでぶち殺してやるぞ!」


「は!小娘が!やれるもんならやって見な!あたしゃ半端は覚悟で受付してないよ。日々、荒くれ共の相手してやってんだ!冗談じゃないよ!」


 ポリーはドラゴンバードから作られた散弾銃を構えて見せた。引き金に指を絡ませ本気であるとアピールしてきた。


「わあ!待って!これです。これを換金したいんです!」


 ヴェルは慌てて、宝玉が付いたネックレスと刀のブレスレットを差し出した。ポリーは始め疑ったが、どうも本物らしい事に気付き席に着いた。

 ポリーはジロリとヴェルを見て、遺物に触ろうとしたがバチッと電気らしきものが流れてポリーを拒否して来た。


「こりゃあ、何だい?こんなの初めてだよ!ちょっと待ってな!確認してくるから」


 そう言って、ポリーは席を立ち上司に相談しに行った。残されたヴェルとリオンは待つしかなかった。


「ヤバいやつなのかな?‥もしさ、これで船が買えたらリオン。来てくれるかい?」


「フフ‥どうかな?」


「え!」


 ヴェルはてっきり二つ返事でOKしてくれるものと思っていたのに、まさか、はぐらかされるとは思ってもみなかった。ヴェルはあからさまに肩を落としてうなだれてしまった。


「馬鹿‥嘘だ。行くに決まってるだろ。だから、そんなに落ち込むな!全く‥」


「心臓に悪いな」


「私の心臓だぞ。この程度で悪くなるわけないだろ!」


「そういう意味じゃないよ!」


「ハハ、知ってる!」


 リオンは本当に明るくなった。こんな冗談も言うようになったのだとリオンを変えた自分自身を誇らしくなった。

 ポリーが帰って来ると顔を青くしてきた。泡でも吹いて倒れるんじゃないかと思うほどだった。


「で、お幾らで引き取ってもらえますか?」


「ちょっと、こちらへ、どうぞ!」


 ポリーは気持ち悪いほど丁寧に奥のお客様用の個室へと案内してきた。

 気持ち悪いとは思ったが、素直に従うしかなったので、ヴェルとリオンはカウンターを越えてお客用の部屋に入ろうとしたが、何かを感じたリオンは足をピタリと止めた。

 

 ――竜人の直感が走る。六感が危険と叫ぶ。


「ヴェル!止まれ、入るな!」


「え?」


「逃げろ!」


 リオンは呆けているヴェルを担いで壁をぶち抜いて走った。部屋の中にいたのは、頭がツルっと禿げた漁業組合会長バイエルンだった。

 バイエルンは舌打ちした。そのバイエルンの後ろには黒いフードを被った人間が複数いた。

 机の上にある宝玉のネックレスと刀のブレスレットは浮き上がるとヴェルを追いかけて飛んで行ってしまった。


「追え!いいか、絶対に殺すな!赤い髪の女と男を生かして連れて来い!もし。殺したら貴様等が死ぬ事になる。解ったな!」


 黒いフード達は背筋を伸ばして姿を消した。 

 リオンはヴェルを担いでアライザとの集合場所へと走った。どうして走っているのか自分でも解らない。だた、直感がしたのだ。

 それに微かな殺気があの部屋から漏れてた気がしたからだ。

 急いでヴェルの自宅に戻りたかったが、此処は港町ラカンである。自宅は中央都市シャーンの外れにあるので、とても走って帰れる距離じゃない。

 どんなに早くても半月以上かかってしまう。だから、いつもの集合場所でアライザがテレポートで迎えてくれるのを待つしかないのだが、丁度、黒猫の姿でアライザが現れた。


「あら、どうしたの。そんなに走って?」


「アライザ、直ぐテレポートだ!急げ!」


「え?え?何なの?」


 リオンの真剣な顔を見て察したアライザは直ぐに帰りのテレポートの準備をした。 

 それからすぐに、屋根の上から、路地裏から、上空から、正面からと四方八方からフードを被った者達が走って来た。

 ようやく、状況を理解したアライザはテレポートの準備を急いだ。


「来る来る!早く早く!」と急かすヴェルにアワアワと冷汗をかくアライザの眉間にピキっとシワがよる。


「ちょっと五月蠅い黙って!集中できないわ!」


 あまり聞かないアライザの怒鳴り声にヴェルは驚いて「はい!」と声を上げて直立してしまった。

 となりのリオンがカッコ悪いと言いたげな、冷ややかな視線をヴェルに送って来た。ヴェルは冷汗をかいた。


 (ああ、恥ずかしい~。助けて、ジャム!お前ならきっとここでフォローしてくれたはずだ!俺にはお前が必要だ!)


 間合いに入った黒いフード達は一斉に飛び掛かって来た。あと、もう少しで手がとどきそうだったが、寸前でテレポートは完成して、目の前からヴェル達は姿を消してしまった。

 黒いフード達は獲物を取り逃した事で、怒り狂い木造の民家に八つ当たりすると拳で穴が開いた。

 大きな音がしたので、家の主が何事かと、外に出てみたが、もう、外には誰もいなかった。


 自宅についた3人は一息ついた。気が付けば腕と首にネックレスとブレスレットの遺物がヴェルに戻っていた。


「これ、そんなにヤバいやつなのか?」


「ちょっと、説明しなさいよ!」アライザは困惑した。それはリオン達も同様だった。


「それは私達が知りたい。ヴェルが持ってる遺物を換金しに行ったら、襲われたんだ!‥それと、テレポートの直後に見えた黒いフード‥アイツ等強いぞ!」


 ヴェルはそんな事より、換金出来なかった事が心底悔しかった。

 夢に一歩届かない。あと、一歩。その一歩が遥かに遠く感じた。お金を溜めるってどうしてこんなに難しいのだろうか?

 何か錬金術でパ~とお金が出て来ないだろうかと思わずにはいられない。


「そう。じゃあいいわ。まあ、今はそんなことより~」


 アライザはヴェルを抱き締めそのまま、ベットへ押し倒した。今日、1日ずっと我慢していた鬱々とした感情が先程のスリルと相まってつり橋効果となって爆発した。


「おい、待て!アライザ、ズルいぞ!私だってずっと我慢してたんだぞ!」


 2人は衣服を脱いで、ヴェルに飛び掛かった。ベットはギシギシと軋む。


「ヴェル、無茶苦茶にしてくれ!早く!早く~!」


「あら、じゃあ、私はヴェルを無茶苦茶にしちゃうわ!」


 ヴェルは思う。こんな事してる場合なのか。今さっき命を狙われたんだぞ。全く。だが、ヴェルの思いとは裏腹に命知らずの下半身はロケットの発射準備が整った。


(まあいいか!後で考えよう!ヨシ、行くぞ!ああ‥2人が可愛い。可愛すぎる。絶対、2人を連れて世界へ出てやる!)


 気合が入ったヴェルは、リオンの形が整った丸いお尻を儂掴みにして後ろから激しく頂いた。ヴェルは獣になってリオンを喰らった。満月が見えたら吠えていただろう。

 リオンはこれだ!これがいい!と喘ぎながら宇宙そらへ飛び立つのが癖になってる。うん、リオンはMだった。

 普段は気高いリオンをベットで後ろから‥。この征服感がたまらない。

 リオンは言う。こんなに後ろからされるのが好きだとは思わなかった。竜人の男共に犯されていたらどうなっていたかと想像するとゾッとする。私は正気を保っていられたのだろうか?きっと、後ろから犯される快楽に溺れていたのではないか‥。そう思うとまた、体が震え始める。‥怖い。ホントに始めてがヴェルで良かった。

 逆にアライザはSだ。言葉は優しく、体位でマウントを取るのが好きらしい。ヴェルを下にして、ヴェルの手を握って上下に動く。これが好きみたいだ。突き上げられる快感が何とも言えないらしい。「ふふ、ヴェル、かわいい。もっと見せて!」と言いながらヴェルの宇宙そらへ飛び立つ顔を見ながら自身も飛ぶのがいいとか。そういいながら、アライザの目には涙が溢れていた。――ああ、可愛い。

 今日もヴェルは絶好調。2人を代わる代わる愛した。そして、愛された。お互いあらゆる所にキスをして、舐め合った。

 

 そして、その夜、1人の男が酒場から追い出された。男は酒臭い臭いを撒き散らしながら仁王立ちする店主の男に怒鳴った。


「金ならあるぞ!ちくしゃ~が!おら~!」 


「うるせえ!ここは楽しく酒を提供する場であって、風俗じゃねえんだよ!女に触りたきゃ他所行きやがれ!女性客が迷惑してんだよ。馬鹿野郎が!出てけ!」


「チッ!全部リオンのせいだ!アイツが俺の女になりゃいんだよ!くそが!」


 男は店に唾を吐いて千鳥足で歩き出した。その内、裏路地へ入ると立ちションをした。

 奥から冷たい風が吹く。

 肌に当たる冷気が気持ち悪かった。

 ザラザラして死神に喉元を鎌で斬られる感覚だった。

 男は体を震わせる。気が付けば黒いローブを着た集団に囲まれていた。


「ああ~ん。なんだ~!俺様を誰だと思ってる、カイエン様だど!」


 黒い集団は一言もしゃべらず、カイエンの手足を縛り口に猿轡さるぐつわをして闇へと消えてしまった。見事な手際に気付く者は誰一人いなかった。


 アライザを探しに出たあの日から3日経つが、ジャムが帰って来ない。

 ジャムは突然、フラッと消える事はよくあるが流石に3日は長すぎるので、ヴェルは心配になって来た。


「アライザは知らないか?」


「さあ。アイツが消える事って、よくある事じゃない。心配する事ないわよ。それより、この家は捨てましょう。引っ越ししましょう!」


「引っ越し?」アライザの突然の提案にヴェルは動揺した。


「だって、ヴェル命狙われてるのでしょう?だったら移動した方がいいわ!」


「そうだな。私もアライザに賛成だ!」


 リオンとアライザは意見が合った。実は、ヴェルも、引っ越しは命が狙われた日に考えていたのだが、ジャムが帰って来ないので躊躇っていた。

出来たら、ジャムも一緒がいい。何だかんだとヴェルはジャムの事が好きだった。

 だから、ギリギリまで待つつもりだった。でも、もう、限界みたいだ。

 自分が思っている以上に危険な状況なのかもしれない。

 ヴェルは動揺する心を落ち着かせて考えた。暫く静寂の時間が流れる。窓の外から虫の鳴き声が聞こえる。

 アライザとリオンはヴェルの決断を待っていた。そして、ヴェルは静かに決意した。


「わかった。そうしよう。ジャムならきっと追ってきてくれるだろう。で、アライザ、何処かあてはあるのか?」


「ええ。あるわ‥」


 ――コンコン。


 アライザの言葉を遮って扉をノックする音が聞こえた。皆、緊張が走った。

 

 ――もう、追っ手が来たのか?早すぎる。


 港町ラカンからここまで半月はかかるのはずなのに。どうやって?ヴェルは慎重に扉の前まで歩くと、外から知ってる人物の声が響く。


「俺だ!リックだ!いるんだろヴェル。開けてくれ!」


「なんだ、リックか‥」安堵したヴェルは扉を開けると、そこには怖い顔したリックが立っていた。 

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