第12話 宝玉と刀

 岩に囲まれた民家らしき壁を背に座り込むヴェルとリオン。肩を寄り添い合い、見つめ合った。そして、もう1度キスをした。


(‥不思議だ。ヴェルに触られても体が震えない。寧ろ、もっと触りたと思っている自分がいる)


「リオン。‥好きだ」


「フフ、もう、何度も聞いているぞ」


(また、笑った。リオンが笑うと嬉しいな)


「‥そうか?」


「ヴェル、さっき言ってたな。私と一緒に世界が見たいと?」


「ああ」


「さっきは意味が解らなかったが今なら解るぞ。だから、私もお前と行きたい。世界を見て見たい!」


「お、おおおお!じゃあ、早速!」


「お、おい!まて!気が早いぞ!全く」


「‥あ、うん。アハハ。と、取りあえず、ジャムと合流してここから出よう」


「ああ。そうだな」


 そのジャムが信用ならん。とリオンは思ったが折角、お互い盛り上がってるところに水を差すことはないかと口を閉ざした。そして、チラッとリオンはヴェルを見るとリオンは口を尖らせた。


「‥ヴェル。もう一度!」


 ヴェルとリオンは立ち上がると蛇のように絡まり、キスをした。そして、ゆっくりと距離を取った。


「‥好きだ。ヴェル」


「僕だって、何度も聞いてるよ、リオン」


「何度だって言いたいんだ!馬鹿者!」


 こうして、リオンとヴェルは目線の先に見える高くそびえる王城に向かって歩き出した。


 王城の中は湿気でカビ臭かった。しかし、ジャムは王城には入らず、王城の脇に進んだ。

 そこには屋根の一部と扉が崩れた教会があった。中に入ると出迎えたのは、正面の壁に飾られた神の姿を模した七色のステンドガラスだった。だが、そのステンドガラスも割れていた。きっと、昔は崇拝者の心を癒し、ステンドガラスにはめ込まれた神の姿に向かって祈りを捧げたのだろう。

 古代に思いをはせるジャムは、教壇の後ろにある、大量の人骨が山となって捨てられているのをみると、光の神に祈りを捧げ、風を巻き起こした。人骨はバラバラに巻き上がり、四方八方に飛び散った。そして、床を調べると、地下へと進むと隠し扉がある事を確認した。

 ジャムは緊張した表情で、扉を開けると地下へと進む階段が現れた。滑りやすい階段に足元が取られそうになったのでジャムは羽を広げて飛ぶ事にした。下に下るにつれ闇は深くなってきた。暗闇に紛れて何者かが襲って来る妄想にジャムの背筋はゾゾッとする。ジャムは急いで光の神から光の玉を召喚した。

 周囲は光に照らされハッキリと見えるようになったのでホッとした。更に階段を下る。自分は今下がっているのか、上がっているのか解らなくなってきた。平衡感覚が麻痺して時々、壁にぶつかる。ジャムは急いで首を振った。眩暈で気持ち悪い。だが足を止める訳にはいかない。必ず、見つけ出す。古代の宝玉を。

 そして、ジャムは進み続けると、ようやく、壊れた扉の前に着いた。ジャムは罠がないか警戒してから、中に入った。

 中に入ると、突然、マーメイドの残党が一匹襲って来た。と思ったら、よく見たらマーメイドの死骸だった。どうやら、ここに迷い込んで出れなくなったらしい。ジャムは安堵の溜息を漏らして前を向く。

 この部屋は、上にある教会より、一回り小さい集会所だった。ロウソク立てが祭壇の上と壁に何本も囲うようにあった。ただ、違う所は拝む対象である神がない事だった。

 壁の脇に、上と同じく人骨らしき欠片が散乱している。これは期待出来るかもしれないと、今までにない緊張が走った。罠に気を付けて目的の物をジャムは探した。


 

 ヴェルとリオンはジャムとは違い、王城へと入った。足元は歩く度に埃が舞った。玉座まで続く大きな廊下には王の威厳を示す為の彫刻が等間隔に並んでいたのだが、全て壊れていた。

 きっと、ここを巣にしていたマーメイドが壊したのだろう。そう思うとマーメイド達に怒りが湧いてきた。リオンも同じ思いをしていたらしく彫刻を見て気を落としていた。


「残念だ。きっと、古代人は高い文化性を持っていたのだろう」


「まだ、諦めるのは速いよ。玉座を見て見よう!」


「ああ」


 ヴェルは待ちきれなくなって走って玉座へと走った。リオンは呆気に取られたが、ヴェルの楽しんでいる姿を見ているとリオンも楽しくなって気が付いたら、ヴェルを追って走っていた。

 だが、玉座に着いたヴェルは落胆した。玉座以外、全て瓦礫となっていた。辺りを歩いてみたがこれといったものはなかった。ただ、玉座の後ろの壁には三日月の形をした月の紋章がデカデカとあった。


「ここ。月の民の遺跡か‥」


「ヴェル、なんだ。月の民とは?」


「いや、詳しくは解らないけど、今まで見つかった遺跡には月の紋章と太陽の紋章があったんだ。だから、僕等は月の民、太陽の民って言ってる。けど、それだけ。詳しい情報は全て船上都市ノアが握ってる。何度抗議しても、情報を開示してくれない。駄目の1点張りだ!」


「‥そうか」


「まあ、僕等は見つけた遺物を買い取ってくれれば、文句ないけどね!」

 

 そう言いながら、ヴェルは玉座に座ってみた。石で出来た玉座は冷たくて硬い。座り心地も悪かった。

 ヴェルはひじ掛けに手を添えてみる。昔の王様はどうしてこんな座り心地の悪い椅子を好んで座るのか理解に苦しむヴェルだった。がその時、玉座が突然光り出した。


「?」


 魔術トラップか?ヴェルは突然の事で声も出なかった。


「ヴェル、離れろ!」


 リオンはヴェルの手を取って握った瞬間、2人の姿は玉座から消えた。

 次に瞬間、別の場所へと転移していた。ヴェルとリオンは抱き合いながら目を開けた。すると廊下の明かりがヴェルがいる所から点き始め奥まで照らし始めた。目の前には古代人の彫刻がズラリと並んだ長い廊下が現れた。


「無事か、ヴェル?」


「うん。リオンは?」


「問題ない‥」


「何だったんだ?」ヴェルはリオンを見つめる。


「解らん?」リオンもヴェルを見た。2人は見つめ合うと笑いが込め上げた。


「は~怖かった!」ヴェルはリオンを見て笑った。


「フフ。まったくだ!馬鹿者!不用意に遺物に触るからだぞ!」リオンもヴェルを見て可笑しくて笑ってしまった。


「‥可愛い」


「何だ。急に?」ヴェルの急な真顔にリオンは戸惑った。


「リオンって、笑った顔。凄く可愛いよ!」ヴェルがそういうと、リオンは立ち上がり真顔になった。


「竜人にとって、可愛いなど‥嬉しくない。竜人は強さが全てだ!強さこそが最高の誉め言葉なのだ。だから、ヴェル。今後、私に可愛いなど言うな!屈辱だ!」 


 リオンにとって、そこだけは譲れない竜人としてのプライドだった。強さこそ、全て。例え、ヴェルを好きになろうともそこだけは譲れない。


「‥うん」


 ヴェルは悲しかった。リオンはやっぱり竜人なんだと現実を突きつけられてしまった。それでも、リオンを思う気持ちは変わらない。がしかし、人間と竜人の溝は埋まる事はないのだろうか。それがヴェルには悔しかった。リオンが遠くに感じた。

 なのでヴェルはリオンを強く抱き締めた。リオンの体は柔らかかった。こうしてみると人間と変わらないに。余計に悔しくなった。

 今のリオンにヴェルの気持ちは理解出来なかった。正直、何故、今、抱き締められたのか解らなかった。

 それでも、ヴェルの事が好きである気持ちは本物だ。それ故、本能に従って、身を預け目を瞑った。2人はキスをして、お互いの心音を通して気持ちを確認し合った。暫く沈黙したのち、廊下を歩き出した。


「凄い‥」


 ヴェルは目を丸くした。完璧な状態で残っている彫刻品がズラリと並ぶ廊下をゆっくり歩く。リオンも興奮を抑えられなかった。見るもの全てが新鮮で楽しかった。2人ははしゃぎながら歩く。その内、大広間へと出た。

 大広間は見た事がない鉱物で出来た部屋だった。壁はツルっとして隙間がなく黒い部屋だった。中心には手の平サイズの細長い台座があるだけだった。


「ここは何だ?」ヴェルは周囲を見渡すが答えは出ない。


「見ろ、ヴェル。台座がある」


 2人は周囲に罠がないか探してみたが特にそれらしきものはなかった。


「台座に手のせるんじゃないか?ヴェルやってみろ!」


「え?僕?」


「ああ。さっき、玉座が反応したのもヴェルが座ったからじゃないのか?ならやってみる価値はあるだろ!」


「そっか‥わかった。もし、罠が発動したらリオン逃げて!」


「馬鹿者!お前が死ねば私も死ぬ。どの道、逃げ場などない!」


「ああ、そうだった。つい、忘れる、ハハ。じゃあ、いくよ!」


「慎重にいけ!」


 ヴェルは震える手で黒い台座に手を置いた。ヒンヤリした。何か起こるようには感じなかったのだが、しかし、台座とヴェルの手の間が光り出した。リオンは罠が発動しないか周囲を警戒して、ヴェルと背を合わせて守った。

 光は消えると目の前に入り口が開いた。奥の部屋が現れると、明かりが点いて、2つの台座が地面から上がって来た。そして、その台座の中から1つは宝玉。もう1つは刀が出て来た。

 

「なんだこれは?」


 リオンが刀に触ろうとすると、バチンと魔術が発動して弾かれてしまった。もしやと思い、宝玉にも同じ事をしたら、同様に弾かれた。その事にリオンは少なからずショックを受けていた。 見るからにしょんぼりとして肩を落としていた。リオンには悪いがヴェルにはその姿が可愛く見えた。


「ヴェル‥さわってみろ!」


 リオンは口を尖らせ、自分が触れない事に納得してない感じだった。若干八つ当たり気味にヴェルをジドッとした目で見てきた。

 ヴェルは頷いたが、リオンの視線に圧を感じて触りたくなかった。こんな事で喧嘩はしたくないな~などど思いながら刀に手を伸ばすとあっさり握る事が出来た。


「う”~ズルいぞ!ヴェル!私だって触りたいのに!貸せ!」


 しかし、さっきと同様、リオンの手は弾かれた。気のせいかリオンの目頭にキラリと光る涙が見える気がしたが、ヴェルは黙った。

 強さを求める竜人に涙を指摘したらどうなるか、想像しただけで心底震え上がった。リオンとは喧嘩だけはしたくない。

 勿論、宝玉もヴェルは掴む事が出来た。玉と刀を手にしたヴェルは不思議と手に馴染む感覚がした。

 ヴェルは改めて刀をみると刀の名が頭の中に流れ込んできた。


 ――神竜刀!


宝玉にも同じ事が起こった。


――『  』‥え?


 ヴェルはその宝玉の名に驚いた。それをリオンに言おうとしたら魔術が発動して刀の名と宝玉の名が声に出せなっていた。


(‥え?声が!名前が言えない!)


「どうした、ヴェル?」


「いや、別に‥何でもない」


 神竜刀は竜の形をしたブレスレットに変化した。宝玉はネックレスに変化してヴェルの腕と首に収まった。


「いいな~う”~ヴェルめ!自分ばかり!ズルいぞ!」


「へへ、いいだろ!リオン、羨ましい?」


「‥別に、全然、羨ましくないぞ!カッコ良さそうだとか、強そうだとか全然思ってない!」


(あ‥なんか、楽しい!リオンの新しい一面が見れたかも!)


「じゃあ、本来の目的、ジャムを探そう!随分、寄り道したな!」


「‥ああ、そうだな」


 リオンは恨めしい目でヴェルを見てくる。そこまで欲しかったのかと思うと申し訳ない気がしてきた。帰ったら代わりに何か買ってあげようかなとヴェルは思った。

 2人は元の廊下を戻り突き当りまで行くと、足元に、来た時はなかった魔法陣が出ている事に気が付いた。その魔法陣に入ると玉座に戻る事が出来た。

 その時、洞窟内に地震が起こった。王城のあちこちが崩れ始めた。そして、何処からか、うめき声が洞窟内に響てきた。

 

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