第18話 一緒にいたい

カズヤからもうすぐ帰るねと連絡が来た。

私は作ってあったシチューを再び火にかけ、温める。


開け放ったキッチンの小窓の外から車のドアを閉める音がしたので、私はすぐに火を止め、玄関の鍵を開けてカズヤを待った。


「ただいまぁ〜。」

「カズヤぁ。会いたかった!」


私はカズヤに抱きついた。


「昨日も今日も会ったじゃん。」

「そうだけどさ、夜一緒じゃなかったしさあ。カズヤは、寂しくなかったの?」

「いや、寂しいけどさ、先輩とメシ食いに行ったりしてたし。」


カズヤは楽しく過ごしてたのか。なんだか気持ちが一方通行になっているみたいで、悲しくなった。


「ねぇカズヤ、もうちょっと広い家借りて一緒に住まない?」


「いいけど、俺用の部屋は作ってね。」


「え、なんで?」


「俺には、ひとりでいる時間も必要なんだ。」



そんな寂しいこと言わないでよ。

ずっと一緒にいたいのに。



なんだか最近カズヤが少し壁を作っている気がする。

何の壁なのか私には想像もつかないのだけれど、触れられたくないものがあるような気がして、私はそれ以上聞くことができなかった。




「今日さ、主任に呼び出されて、態度が悪いって注意されちゃった。」

「え、カズヤが?あんなにニコニコしてるのに?」

「あ、利用者さんじゃなくて、職員に対してね。なんか、注意したことに対して反省してるように見えないとか言って怒られて。」

「そうだったんだ…。」

「やっぱ俺もう、試用期間で終わりかもしんない。仕事探さないと。」

そういってカズヤはカバンから求人情報誌を取り出した。


「ちょっと、1回注意されたくらいでそんなに落ち込むことないよ、次から気をつければいいし!」

「でも、これ以上ばあちゃんに迷惑かけられないし…」


…じゃあもう、ばあちゃん関係ない介護の仕事したらプレッシャーにならないんじゃない?

って言いたくなったけど、カズヤの就活の苦労を何も知らない私が口出しすることじゃないな、と言葉を飲み込んだ。


「ねぇカズヤ、カレー作ったけど外に出かけてこない?ちょっと日常から解放されたらいいかも。」


「ありがと、そうするかな。」


2人で近くのバッティングセンターに向かった。

私は球速80kmのコース、カズヤは球速120kmのコースにそれぞれ入る。


私がヘルメットを被って小銭を入れようとしたら、早くも横からカズヤの打球の気持ち良い音が鳴る。


「うぉー!!!久々だぁ!!」


楽しそうなカズヤに私は少し安心した。

「カズヤ、勝負しよ?15球全部打てたらなんでも好きなことしてあげる。」


「マジで?!じゃあ…おっと!」

目を離した隙に飛んできた球が後ろのネットに入った。


「待って待って!今のなし!…おっと!」

次の球がドスッとまたもやネットに入る。


「カズヤ、喋ってたらあと1回で見逃し三振だよ。」


「今から!今から全部ね!!」

そう言うとカズヤは目線をピッチングマシンに向け、残りの12球を全て綺麗な放物線で打ち返した。


「ほらね!じゃあ、約束通り俺の言うこと聞いてもらうからね。」

カズヤはにんまりとして私の方を見た。



元気になってくれて、よかった。


「おめでとう!何するか、考えといてね。」

「ふふふ…」

カズヤは何やら悪巧みをしているようだ。



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