Downer〜アイカとカズヤの前日譚〜

第12話 好き、嫌い、好き…

—野波星羅と、付き合ってた？—

答えは半分わかっている。

聞きたくもない質問を、私はカズヤにぶつけた。

「え！？なんで知ってんの？どゆこと？」

…図星…

一気にテンションが急降下した私はへなへなとその場に座り込んだ。

「カズヤ、無理。別れよう。」

「は！？待って待って、全然意味わかんない！！」

カズヤの反応も当然だ。

私は事の経緯をカズヤに説明した。

野波と中学が一緒だったこと。

野波から嫌がらせを受けたこと。

野波とカズヤの話を友人から聞いたこと。

野波と自分では天と地の差ほどレベチであること

野波と寝たカズヤに嫌悪感を抱いてしまったこと。

「いやいや！ちょっと待ってや！！それ、俺に責任ある！！？？過去の話でしょ？…ってかさ、アイツだよ、浮気して俺を女性不信にしたの。」

「野波に浮気されて、何年も引きずるほど好きだったんだ…美人だもんね…ナイスバディだし…」

「待って待って！！違うって！裏切られたって事が許せなかったって話！アイツは、ただのぽっちゃりだよ、俺はアイカのほうがタイプだし！！」

「野波のほうがどう見ても美人だし…」

「いやいや、マジ、俺、どうすりゃいいの！？わかんねぇ。過去のことで別れるとか言われても、意味わかんねぇし！」

カズヤが珍しく声を荒げている。

「過去は過去でしょ？俺が、アイカの昔の男の事で別れるとか言い出したら、アイカはどうすんの！？わかったって言うの？」

「…それは…」

わかってる。

けど、感情は、理屈じゃどうにもできない。

「だろ！？おかしいって！もっかい考え直して？俺、さっきも言ったけどアイツになんかなんの未練もないし。むしろ恨んでるくらいだし。」

野波を「アイツ」呼びしてることからも、なんの感情もないのはわかってる。

でも、まだ心の棘が引き抜けない。

「セーラたん♡」とか呼んでたんだろうか…

うぅ…

頭が痛い。

私は床に横になった。

涙が頬を伝って床に落ちる。

「アイカ、なんか謝るのも意味わかんねーけど、とにかくごめん。悲しませて。でも俺、アイツとはもうホントになんもねーし。連絡先も知らんし。俺が好きなのはアイカだけだよ。俺、アイカと結婚したいって思ってるし。」

「ほへ？？」

急な言葉にびっくりして思わず起き上がった。

カズヤは私の手をとった。

「俺、アイたんと結婚したいの！！！だから、こんなどーでもいいことでいちいち別れるとかいわないで？」

…バカなの？

まだ付き合って1ヶ月も経ってないよ？

いつもは見つめたらすぐに恥ずかしがって逸らすカズヤのその瞳が、私の黒目のど真ん中を直視している。

「えっと…本気で言ってる？？」

「本気だよ！俺、子ども好きだから、早く結婚して子ども欲しいし！アイたんすごいタイプだし！ずっと一緒にいたいし！」

カズヤは真剣な顔で訴える。

「…ありがと…」

またとめどなく涙が溢れてくる。

「……あと、俺たち相性もバッチリだしね〜…」

カズヤが恥ずかしそうに小声で付け加える。

「こらっ、今それ言うかぁ！？」

私は笑いながらカズヤのほっぺをつねった。

「ごめ…

カズヤが言い終わる前に、私が口を塞いだ。

涙のしょっぱい味が、2人の口の中に広がった。