第11話 元カノ

—あっ!!カズヤ、高校一緒だわ!!—




短期間しか高校にいなかったはずのカズヤを、莉央りおがすぐに思い出し、下の名前で呼んだ。



何か嫌な予感がした。




「カズヤのこと知ってるの!?」



「うん。カズヤも森高校モリコーだったから。1年の途中までしかいなかったけど、学年では目立つ方だったからね。アイカ、並木中学校ナミチューだったよね?野波のなみって知ってる?」



野波星羅のなみせいら?」

忘れもしないその名前。野波は中学の女子の陽キャグループの中でもトップレベルだった。天然の茶髪と色気のある顔、人懐っこい積極的な明るい性格。

だが裏の顔は、少しでも気に食わない女は徹底的に踏み潰す恐ろしい女だった。

私も一度野波の嫌がらせの被害を被ってひどい目にあったことがある。




「うん。野波と付き合ってたと思うよ、カズヤ。」




「…えぇっ!!?!?」




莉央から発せられた衝撃的な言葉に、私は息が詰まりそうになった。





—…聞きたくなかった…—





でも、聞いてしまった以上、スルーできない。



「…"思う"、ってどういうこと?そう見えたってこと?」



「うん。だって野波、隣のクラスだったんだけど、毎日放課後になったらカズヤの席に来てずっと喋ってたからね。一緒に帰ってたと思う。」



あぁ…思い出す。

中学の時も、野波はそうやって男子にアプローチしては、めでたくゴールインしてたな。


カズヤの見た目、もろ野波のタイプそうだわ。





—最悪だ。




思い描きたくもない光景が脳内で勝手に描き出され、軽く吐き気がしてきた。






「アイカ、大丈夫?なんか具合悪そうだけど。」



「え?あぁ、うん、大丈夫。」




(莉央が余計なこと言うからじゃん…)



莉央はいつもそうだ。

鈍感で、自分の喋りたいことを相手の気持ちも考えずになんでもかんでも喋る。

大学のときも、そんな莉央に時々嫌気がさし、何度か距離を置こうとした。

でも莉央は変わらずに明るく接してくるから、嫌いにもなれずに今までやってきた。




これ以上はもう聞きたくない。




「莉央、ちょっとお腹が痛くて。ごめん、先会計済ませて帰るね。」



「うん、わかった!今度、私にもいい人紹介してね!」

莉央はニコニコして手を振る。



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心と体は一体だ。

ひどく胃が痛い。



もしかしたら…


…万が一…



…できることなら、莉央の勘違いであってほしい。




でも、カズヤに確かめるまでは、真実はわからない。




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夕飯の支度をしていたら、スマホが鳴った。




「アイたん、今終わったよ〜!!これから帰るね。」

いつもと変わらぬ可愛い口調でカズヤは話す。



「あ、うん。待ってるね…」



「どうしたの?元気ないけど。なんかあった?」



「ううん、大丈夫。またあとでね。」




そう言い終えると私はすぐに通話を終了した。






「アイたん、ただいま〜!!」

カズヤは嬉しそうに私に抱きついてくる。



帰ってきて早々で悪いとは思いつつ、気持ちをおさえきれずに切り出した。

「カズヤ、聞きたいことがあるんだけど。」



「何?」




「野波星羅と、付き合ってた?」











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