第8話 嫉妬

「へくしっ!!!」


くしゃみが止まらず目が覚めた。

ベッドでそのまま寝てしまったんだった。


まだ春先。少し肌寒い。

私は鼻水をすすりながら下着を探し、スウェットを着た。


いけない、洗濯するの忘れてた。

おいそぎ乾燥モードで私は洗濯機を回す。


カズヤは今日は遅番だ。

出る時間までには終わるだろう。


身支度をし、カズヤに声をかける。

「先行くね。洗濯は今してるから。あとカギ、机の上においとくから。私の方が帰り早いから、昼休みコンビニにいくから、そこで渡してくれる?」


カズヤは眠そうにあくびをしながら応える。

「うん、わかった。あ、今日、俺仕事終わってからだから少し遅い時間だけど、昨日話した先輩とラーメンいかない?」


「いいよ。じゃあ、また帰りね。」




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夜。


カズヤの大事な先輩だ。少しでも印象をよくしようと、私は念入りに化粧をした。


まぁ、別にラーメン食べるだけなんだけどね。



仕事終わりのカズヤから電話が来た。

「今終わった。これからアイカ迎えにいって、先輩とラーメン屋で現地集合だから。あと俺、そのあと先輩と遊ぶから、今日は実家帰るから。」


「そっかぁ。わかった。」

まだ付き合いたてなのに、私<先輩かぁ。

まぁ、仕方ないか。付き合い長いんだろうし、上下関係とか色々あるんだろうな。


今夜は一緒に寝れないと思うと、なんだか無性に寂しくなった。



ラーメン屋につき、駐車場でしばらく待った。

ここのところ、カズヤの好きなラッパーのアルバムをエンドレスリピートされているせいで、歌詞がすっかり頭に入ってしまい、気づけば口ずさんでしまう。



「あ、きたわ。」

カズヤがいつも欲しいといってやまない黒いランクルが隣に停まった。


何やら向こうもウーハーでノリノリのBGMを流している様子。


私達は車から降りた。

「ちーっす。」

先輩がキャップを脱いで頭を下げた。

パーカーにスウェット、色黒で、茶色い伸びた坊主頭。


なんかカズヤと雰囲気かぶってんな…


「はじめまして、カズヤがお世話になっております。井沢藍華いざわあいかです。よろしくお願いします。」


「あいかちゃん?カズヤのこと、よろしく頼むね。俺の可愛い弟なんで。」

「先輩、何いってんすか。恥ずいッス。」

カズヤは頭をポリポリした。



「先輩、豚骨でいいっすか。」

「おぅ。」

「アイカは?」

「私もそれで。」


第三者がいるのは新鮮だ。クールなカズヤが見られる。



「…」


「…」


「…」



座り方がまずかった。

ボックス席に、私と、2人が対面している。

2人はお互いに斜め下を向いて一向に喋ろうとしない。


マジでか。性格までそっくりじゃん…

はぁ。先が思いやられる。

私から話を切り出すしかないか。



「あ、あの、2人はどういうつながりなんですか?」


先輩はちらっと私の方を見た後、横にいるカズヤの方に向き直して喋る。

「高校ん時の部活で、俺が3年トキにカズヤが1年で入ってきてさ。すげぇ生意気だけどなんか可愛くてよ。カズヤ、1年の途中で学校やめたんだけど、そのあとも時々あちこち連れ出してんだ〜。」

「いや、時々じゃないっす。毎週っす。」

カズヤがつっこみを入れる。


「カズヤ、高校中退だったんだね。」

「なんかクラスに馴染めなくて。そのあと、別の通信制の学校入って卒業したけどね。」

「ふぅ〜ん。」


お茶目なカズヤの別の一面が、次々と見えてくる。


「え、2人はさ、どやって付き合ったの?カズヤから告ったの?」

先輩はカズヤに向かって喋る。

「えっと…あぁ、うん、そうだったかな。流れで。」



(何よ、カッコつけちゃってww)

私は心の中でププッと笑った。




そのあとも沈黙の合間合間に私がなにかしら思いついた質問をする形で食事を終えた。



「じゃあ、俺らこれからゲーセンいくんで。また明日な、アイカ。」


(誰だよ…キャラ違げーし…)


「うん、また明日ね!バイバイ。」



カズヤと先輩はとなりの市に向かっていった。


緊張がほぐれてどっと疲れが出た。

はぁ。

初対面のカズヤが2人いるみたいだった…

疲れた…



カズヤがいないの、寂しいな。

おなかはいっぱいだったけど、コンビニでおつまみと日本酒を買って帰った。



いいんだ。

1人の日は、自由にお酒が飲める。

手持ち無沙汰の私はテレビをつけ、つまみ用にもやしのナムルを作った。



—もやもやする。

まだ、私はカズヤの事をなにも知らないんだな。



今、どこで、何してるんだろう。

 


私はちょっとだけ、先輩に嫉妬してしまった。


















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