第6話 照れ屋さん

あれから約束通り元気を取り戻したのか、午後からカズヤはフロアへ戻っていた。


デイケアの奥にあるリハビリスペースに書類を届けにいきがてら、カズヤの姿を探した。


入浴を済ませ、ドライヤーでふさふさになった白髪の留吉とめきちさんと談笑しながらその車椅子を押しているカズヤは、初デートのプリクラの時みたいな笑顔をしていた。




可愛いなぁ。

カズヤ、ほんとにじいちゃんばあちゃんっ子なんだな。

私もつい笑顔になった。



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今日はカズヤも日勤。

私は近くのコンビニでカズヤの車を待った。




「お待たせ。」

「ううん、全然。」

私はハイルーフなカズヤの車に勢いよく乗り込んだ。




「なんか食べてからうち行こう?」


「え、今日も泊まっていいの?」


「うん。一緒にいたいし。やだ?」


「いや、俺も一緒にいたいけどさ、家帰って制服洗濯しなきゃ。」


「そんなん、うちで洗うから。とりあえず、食べに行こ?」


私達は、近くのショッピングモールに入った。


「カズヤ、手ぇつなご?」

私がカズヤの手に指を絡ませると、カズヤは慌てて手を離した。


「えぇっ!?だめだよっ!!このへん、ショッピングモールここしかないから、職場の人とかいるかもしんないし!!」

カズヤは、恥ずかしそうに両手をスウェットのポケットに入れ、キャップを深く被り直した。



えー…!?!?あのぅ…

職場でやらしいことしようとしてた人は、誰でしたっけ…




「あのさぁ、手つないでなくたって、一緒にいる時点でもう、見られたらアウトだと思うんだけど…」



「いや、でも、人前でイチャイチャするのは、恥ずかしいっす…」

カズヤはずっと下を向いて目を合わさない。



…この人の照れ基準、一体どうなってるんだ。よくわからん。



私達は3階のフードコートでラーメンを食べた。


「カズヤ、ラーメン好きだね。」


「はい、先輩が家系ラーメン好きで、よく連れてってくれるんで…」


だから、なんでまた敬語に戻りつつあるんだよ…


「そういえば、先輩に彼女できたってアイカのこと話したら、すごい喜んでくれて、アイカに会ってみたいって。」


外ではアイたん呼びは封印なのね。


「そーなんだ。その先輩、仲良いんだね。いいよ、3人でごはんでもいこう。」


まだ恋人になったばかりなのに、早速ノロケ話するなんて、よっぽど仲良いんだな。

シャイなカズヤが、そんな話してる姿を想像したら、愛されてるって実感できて、なんだか嬉しくなった。



「夜、お酒……は飲めないのわかったから、お菓子とか飲み物買って帰ろ。」

「うん。早く帰ろ!」

カズヤは満面の笑みになった。




帰宅して、買ってきた飲みものとコップをテーブルに出す。

「カズヤ、お風呂沸かしたら入る?シャワー派?」


「えっ!!お風呂!!?シ…シャワーでいいよ。アイたん、恥ずかしいから絶対覗かないでね…」

 

いやいや、何をいまさら。

てか、なんでアタシが変態扱いされてんのよ。


「具合も悪かったし、お風呂で一緒にあったまんない?」


「えぇえー!??お風呂はちょっと、恥ずかしいっす…」


はぁ?


「もう。お風呂にするからね。いい?」

私は給湯器のスイッチを操作する。



「えぇーっ!??アイたんのエッチ〜!」

カズヤはふとんにくるまって、嬉しそうにはしゃいだ。



なんなんだ、この人。














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