第2話 アンデッド退治の依頼

「サリカ殿」

 私の名が呼ばれました。

 声がした方を見ると、そこには一人の男性冒険者がいました。ウォレムさんという名の討伐チームのリーダーの方です。


「お見事」

 ウォレムさんはそう続けます。

「いえ、皆様のお陰です」

 私はそう答えました。これは謙遜とは言えません。


 このオークは私と戦い始める前に、既に多少の傷を負っていました。

 そして、私が的確に攻撃を当てることが出来たのは、オークが劣勢に焦って防御を疎かにして、大振りな攻撃をしたから。

 私がオークの攻撃を全て避けることが出来たのは、私が錬生術を使っていたからです。


 もし、このオークが落ち着いて攻撃をして来たなら、そう簡単に攻撃を当てることは出来なかったはずです。

 そして戦いが長引けば、やがて私のマナが底をつき、錬生術の効果が切れてしまったはずです。

 そうなれば、苦しい戦いになったことでしょう。

 その場合はその場合で、別の戦い方もありましたが、確実に勝てる保証はありませんでした。


「いや、我々全体の勝利である事は事実だが、あなたがいなければオークの親玉を逃がしてしまっていたのも間違いない。先ほどあなたを侮るような事を言ったのは、私の見誤りだった。すまなかった」

 ウォレムさんはそう言って、頭を下げました。

「何も気にしていません。ですので、大げさにしないでください」

 私はそう返しました。


 確かにウォレムさんは、戦いの前に私を侮り、念のための後詰としてしか使わないことにしました。

 ですが、17歳の小娘に過ぎない私が、一人前の剣士と名乗り1人で冒険者を務めるつもりだといえば、侮られるのも当然といえるでしょう。

 むしろ、後で認識を改めて謝罪してくれる方が稀です。


「ありがたい。当然だが、店にはあなたの功績が大きかったと報告させてもらう」

「ありがとうございます」

 私はそう答えました。

 ウォレムさんとは臨時にチームを組んだだけでしたが、どうやら誠実な方のようで良かったです。




 オーク退治から数日が過ぎました。

 今私が居るのは、アースマニス大陸の北西の果てに位置する北方都市連合領。その中核都市のひとつホーヘンです。

 ホーヘンの街で、私はソロで活動する冒険者をしています。


 冒険者というのは、古代魔法帝国時代の迷宮などに潜って遺物を得たり、魔物を討伐したりといったことを生業とする者達のことです。

 しかし、他にも幅広い依頼をこなしており、要するに何でも屋です。

 そして、いずれかの冒険者の店に所属して仕事をこなしています。


 私も、ホーヘンの街にある冒険者の店に身を置かせてもらっています。

 ですが、この街に長居をするつもりはありません。私は今旅の途中で、次は南に下り、アストゥーリア王国へと向かう予定です。

 今はその路銀を稼ぐために仕事をしているところです。


 ホーヘンの街の近くには、かなり大規模な古代魔法帝国時代の迷宮もあり、そこに潜る冒険者も数多くいるのですが、私は迷宮に潜るつもりはありません。

 私は斥候としての技も習っていますが、それは嗜む程度のもので、本格的に迷宮に入るのは危険だったからです。

 ですので、他の仕事を受けなければならないのですが、ソロで行動している事もあって受けることが出来る仕事は限られてしまいます。仕事探しはこまめに行う必要がありました。


 今日も適当な仕事を探そうと思って冒険者の店に顔を出すと、店主から声がかけられました。

「サリカさん。ご指名の依頼が来ています。是非話を聞いてください」

「私に、ですか?」

 思わず問い返してしまいました。


 特定の冒険者を指名して依頼が出されることもありますが、それは有名な冒険者に限っての事です。

 私は遠方から1人でこの街に来たばかりで、当然有名ではありません。実力についてはそれなりに自信はあるのですが、強さの指標である級位も実績不足の為に下級中位とされています。

 それも、先日のオーク退治が評価されて一段上がったばかり。とても指名されて仕事を受けるような状態ではないはずです。


「ええ、間違いありません。

 オークの群れの親玉を、ほぼ単独で討ったという事が評価されたようです」

 店主はそう説明してくれました。

 ウォレムさんは約束どおり私の功績をしっかりと店に報告してくれたのですが、それが次の仕事に結びついたという事のようです。


 店主が説明を続けてくれます。

「内容はアンデッド退治という事しか聞いてしませんし、報酬もそれほど高くはないですが、依頼者は賢者の学院の導師様です。光明神ハイファ様の神殿の、神聖魔法を使える神官様も参加するそうですから、おかしな内容の仕事ではないはずです。とりあえず、話だけでも聞いてください」

「分かりました」

 私はそう答えました。断る理由はありません。

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