惨劇の廃墟の死者の声
ギルマン
第1話 オーク討伐
森の中に剣戟の音や怒号が響いています。
10体のオークと12人の人間による激しい戦いが起こっているのです。
ここはオーク達が塒にしていた場所。比較的開けていて、丸太を組み合わせたかろうじて建物と見える物が四つ作られています。
オーク達は、最近街道の近くに進出し被害を出すようになり、討伐依頼が出されていました。
その依頼を合同でチームを組んだ冒険者が受け、そして、オーク達の塒を発見し襲撃したのです。
私は、その冒険者チームの一員です。
しかし、まだ戦いには参加しておらず、少し離れた木々に身を隠しています。
後方に待機して、逃走しようとするオークがいたならばそれを出来る限り防ぐ。
また、もしも想定が外れて劣勢になったなら援護の為に戦闘に参加する。それが、私に与えられた役割だったからです。
戦いは事前の想定通り冒険者の側が優勢です。おそらく援護する必要はないでしょう。
私は戦況を見つつ、オークが逃走を図るならこちらだろうと思われる方へ速やかに移動し、また木陰に身を隠しました。そして、改めて戦いの様子を伺います。
「ごらぁ」
そんな声をあげ、ひときわ大きなオークが棍棒を振り回しました。首領格と思われるオークです。
そのオークと戦っていた冒険者の方は、攻撃を受けて倒れてしまいます。
手が空いたオークは戦いの場に背を向けました。逃走を図っているのです。
私は、仲間を見捨てる行いに不快感を感じずにはいられませんでした。
そのオークは私がいる方に向かって走って来ます。
敵が逃げようとするならこちらだろうという私の予想が当たりました。
私は木陰から身を現し、オークの前に立ちふさがります。
そして、背筋を伸ばし、比較的大振りなシャムシールを両手で握り正眼に構えます。
オークは、私の姿を認めると足を止めました。その上背は、小柄な私よりも頭二つほども上です。
オークは私の存在に驚いたようですが、直ぐに豚に似たその顔を醜く歪めました。笑っているようです。
「ブハッ、犯す」
そして、そんなことを口走りました。
オークという生き物は、女を見れば何時いかなる時にも欲情するものだと聞いてはいましたが、本当だったようです。
それにしても、まさか、命がかかっているこの状況で、しかも仲間を見捨てて逃げようとしている時に、私のような小娘に欲望を向けるとは驚きました。
私は嫌悪感を押さえ、体内のマナを消費して身体能力を向上させます。錬生術と呼ばれる術です。
特に回避能力の向上を重視しました。
今回の戦いは他の方と共に戦っており、そちらも概ね優勢に運んでいるのですから、私1人でこの首領格のオークを討つ必要はありません。足止めだけで十分です。
そして私は、オークの顔を正面から見据えたまま、視線を落とすことなく、オークの足を狙ってシャムシールを振り下ろしました。動きを止めるためです。
狙い過たず、シャムシールはオークの左太腿部分を切り裂きました。しかし、分厚い脂肪と筋肉に阻まれ、骨を絶つには至りません。動きを止めたとは言えないでしょう。
「ごらあァ!」
オークもそんな叫び声と共に、棍棒を思い切り振り下ろして来ます。その一撃は技も何もない力任せのものですが、相当の速さでした。
私は退いて避けましたが、錬生術を用いていなければ危ういところでした。
棍棒は地を打ち、「ゴッ」という音を立てて、地面を抉ります。
渾身の力が込められているようです。
私が装備するハードレザーアーマーでは、その攻撃を満足に防ぐことは出来ないでしょう。
私に欲望も向けつつも、手加減をするつもりはない様です。
結果的に気絶させる事が出来れば捕らえて連れ去る。死んでしまったならそれまでのこと。そのように考えているのでしょう。
オークは棍棒を戻すと、滅茶苦茶に振り回します。
とてもシャムシールでいなせるものではありません。
私は精神を集中させ、素早く体を動かし、その全てを回避しました。
後ろで束ねている長い黒髪が左右に揺れます。
そして、隙を見極めて攻撃。
左から右へ振るったシャムシールがオークの脇腹を切り裂きました。
致命傷とは言えないものの、相応のダメージを負わせることが出来たはずです。
「おお!」
その時、オークの後ろで歓声が上がりました。
仲間達が残っていたオーク達を全て倒したのです。
「くそがぁ!」
眼前のオークがそう叫び、棍棒を大きく振り上げ、また渾身の力を込めた一撃を打ち込んできます。圧倒的な劣勢を悟って焦ったのでしょう。
私はシャムシールを右斜め下に構え、右半身を退いてその攻撃を避けます。棍棒は再び地面を抉りました。
オークは前のめりに体勢を崩します。
隙あり!
私は心中でそう呟くと、右足を素早く踏み込み、シャムシールに渾身の力を込めオークの首めがけて振り上げました。
瞬間、オークの動きがゆっくりになったように感じられ、狙う首までの軌道が開け、思うままに武器を振るえるという感覚が走ります。
その感覚のままにシャムシールを振るい、次の瞬間、オークの首は宙を舞っていました。
会心の一撃。
久しぶりに満足できる一撃を放つ事が出来ました。
オークは大量の血を噴き出しながら倒れます。
私はそのまま2歩進んで距離をとり、オークの方に向きを変えてまたシャムシールを構えました。
倒したと思った瞬間に不覚をとる。そんなこともあると承知していたからです。
しかし、今回は何事も起こらず、両断されたオークの首も胴体も、ピクリとも動きません。
オーク討伐は成功裏に終わったようです。
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