九話《会話》
「今回、忌子が研究員一名を殺害した件について、ご説明願おうか?」
若い男の冷めた声に怯ることもせず、女は淡々と会話を始めた。
薄暗くてよく見えないが、その声から、女が研究所の所長、南条命であることが分かる。
そして、それらと向き合うように座った男二人が、机越しに彼女と会話をしていた。
「原因は現在調査中です。忌子が研究員に危害を加えたことに関しては前例がありませんし、なにせあの忌子の力も現状よく分かっていませんので、対策のしようがない、、、これでよろしいでしょうか?」
ばんっと机を叩く音がする。
初老の男が立ち上がって叫ぶ。
「そんな事は分かってるんじゃ!我々が求めているのは、、、!」
命は、すっと目を細めて、目だけを初老の男に向けた。
睨むわけでもなく、ただ見つめるだけ。
そこには、軽蔑の色が宿っていた。
その目を見て、ぐっと、初老の男は黙り込む。
若いの男が初老の男を座らせ、命に聞く。
「もうすでにマスコミには情報が回ってしまっている。それについてはどうするつもりでしょうか?」
「それはそちらで対処するべき問題では?それとも、私に責任を取って研究所を辞めろと?」
若い男は薄く笑って答えた。
「まさか、あなたがいなくなれば政府にとって大きな損害です。他の国に取られてしまうかもしれませんしねえ。」
まだ公にはされていないが、他の国でも忌子に近しい存在が現れ始めたという報告があった。
「あなた方を罰するつもりは毛頭ありません。ですが、きっと世間は研究所に不満を持つでしょうから。危険な忌子を生かす危険な場所だ、と。」
「あながち、間違ってはいませんからね。」
命は飄々としていた。
中年の男はその様子に苛立つこともせず、聞く。
「、、、あなたは忌子をどのような存在だとお考えですか?」
突然の質問に、流命も少し戸惑いの色を見せた。
初老の男はイライラした様子で部屋を出てゆく。
初めから指し示していたのだろう。
「私は、神の子だと思っているんですよ。」
「、、、神なんぞ、幻想に過ぎません。そんなものはこの世にいません。」
「やけにはっきり否定するのですね。」
命は少し不機嫌そうな顔をした。
「なにが言いたいのです?」
男は口調を変え、命に告げた。
「いいのかい?君の嘘が全てバレてしまっても。」
ぞぞっと、全身が逆立つ。
薄暗い部屋に、明確な恐怖が漂う。
「嫌だろう。君のことを慕ってくれている、、、ええと、遥香さんかな?まあ、名前なんてどうだっていいけど。」
男は微笑んだ。
そこに、悪意を満ちさせて。
立ち上がり、命に近づく。
かすかに震え立ちすくむ命の髪をさらりとかきあげ、耳元でそっと囁いた。
「うまく隠してごらん?隠して隠して隠して、疲れ果てて殺されてしまうまで、ね。」
男はそう言って、部屋を後にした。
立ちすくむ命を置き去りにして、明るい場所へ。
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