五話《怒り》

ガラス張りの部屋に閉じ込められた、やせ細った少女を見下ろす。

少女は、まるで私に気づいていないかのように、視線を何処かに固定したまま動かない。

初めの頃は、その視線の意味があるのかと思い調べたが、特段原因も見当たらないため、私は彼女の視線に意味を見出すことをやめた。

後ろにいる秋斗は、少女を見ることさえせず、ただそこに突っ立っているだけだった。

人に話すと頭の中が整理される私は、口が固く、ただ聞くだけの彼に研究のことを話せるのは、かなり助かっている。

他の研究者に話すと、質問攻めか自慢のように捉えられてしまうので面倒なのだ。

彼は、私がまともに話せる数少ない人間であると言えよう。後ろにいる研究者たちを一瞥し、小さなため息をつく。

最近、この忌子の研究成果がなにも得られていないことに、多少の差はあれど皆焦ったり、イライラしたりしていた。

中には、私がこの忌子研究のリーダーを任されているから研究が進まないと陰で言い合っている者もいるが、私は所長の言う通りに研究を進めているだけであり、実質この忌子研究のリーダーは所長である。

それを知ったら、彼らはどんな反応をするのだろうか。

くだらない、と頭の中で一蹴する。

忌子研究に人間関係など本来であれば必要ない。

互いに得た情報を記録し、それを共有し合えばいいだけのこと。

それなのに、嫉妬や羨望など、馬鹿馬鹿しい。

人間というのはこれだから面倒くさい。

私が唯一尊敬するのは所長のみであり、それ以外の研究者は、所長に比べれば赤子にも満たない。

私は白紙の紙にさらりと文字を綴る。

少女に2日間水しか与えていないが、特に変化なし。相変わらず虚空を見つめている。

この2日間、表情を変えることも特に無し。

たった二文しか書けない、書くことがないのだ。

、、、つまらない結果、所長に伝えるのが心苦しい。

この2日間、というか、少女がここに来てからもう3ヶ月が経った。

検査の際、検査員一人が錯乱状態に陥り、もう一人もその時の記憶が曖昧なため、彼女が忌子であることは明白だった。

今まで、精神に影響を及ぼす忌子は報告されていないため、どうすればその力が発動するのか、調べることが最重要だった。

それにしても、、、。

(今まで来た忌子とは、反応がまるで違う、、、。)

たいてい、忌子達は、自分が忌子であることを認めたくなかったり、現実から逃れようとして暴れたり、時には逃げようとする者もいた。

当然だ、ある日突然、幸せから引きずり降ろされ、閉じ込められ、忌子という理由で蔑まれ、嘲り笑われ、実験され、最後には若くしてここで死を迎えるのだから。

でも、それは仕方ない。

忌子は、人ではない。動物でもない。悪魔だから。

今まで人の皮を被り、人としての扱いを受けてきた悪魔に対する罰だ。

でも、彼女はまるで、初めから悪魔の扱いを受けてきたかのようにこの状況を受け入れている。

それはそれで、実験しやすくていいのだろうが。

、、、許せない、この感情は私情だ。研究に必要ない。それは分かっている。

ただ、こいつらは苦しまなくてはいけない。

忌子は、悪魔だ。

私から大切な人を奪った、悪魔達を、私は一生許さない。

怒りの色で彼女を見つめると、彼女が初めて、2日ぶりに視線を動かして、私を見つめた。

彼女の空虚な瞳には、怒りで顔を歪めた私が写っていた。

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