3話《護衛役 狩野秋斗》

俺は、分厚いガラス張りになった部屋の中心にいる少女から、ふっと目を逸らす。部屋の中心に居た白髪の少女はへたり込んで、虚ろな目で何処か遠くを見ていた。

白い病院服のようなものを着ており、服の隙間からは複数の痣が見える。

それは、ここに来る前からついていたものらしいが、ここではその治療なんてしない。

なぜなら、中心にいる少女こそ忌子であるからだ。

白衣の男達が、黙ってその様子を観察しながら、おかしな機械をいじっている。

あれをいじると、あの部屋に何かしらの変化が起こるらしいが、ぱっと見なんの変化もなければ、少女が表情を変えることもない。

俺は、この施設で仕事を始めてからもう3年が経つ。

俺の仕事は、この施設内にいる間、優秀な研究者で、所長のお気に入りでもあるらしい文野遥香を守ることだ。

守る、といえど、この施設内で問題らしい問題が起こったことは今までないし、研究者に被害が及ぶなど、考えられない。

だから、要するに側にいる雑務係のようなものだ。

制限も多いが、普通の仕事よりも楽で稼げる仕事を、続けない理由がない。

他の研究者の護衛役は、こき使われてやめていったことがほとんどだが、幸い文野遥香が俺に何かを要求してくることは基本的に無く、二人きりの時に俺に話す以外なにもしてこないため、平和にこの仕事を続けられている。

彼女は、基本的に無口な俺を他の護衛役よりかは気に入っているらしく、時折差し入れが入ったりするのも有り難いところだ。

音もなく、白い自動ドアが開く。

「、、、。」

文野遥香が部屋から出てきたとたん、他の研究者達がペンを止める。

その顔をちらりと見ると、羨望の眼差しを向けている者や、中には恨みと妬みの目で彼女を見ている者もいて、そのどれもが彼女をこの研究所内で特別で異例の存在なのだと認識させる。

その目はすべて、彼女が優秀で、すぐに所長に気に入られ、あの忌子の少年のほぼ全権を任されたことに対してのものだろう。

もともと彼女は、去年死んだ忌子が死んだあとは、異質忌子の担当になるはずだった。

だが、新しい忌子が入ってきたため、この忌子研究のリーダーを務めることになった。

異質忌子、というのは、普通の忌子よりも脅威だ。

忌子というのは基本的に20歳以下で全員死んでしまうのが特徴だ。

忌子というのは、未だそれになる原因が分からない存在。

長命な忌子が増えてしまう可能性があるため、異質忌子は他の忌子とは違い、担当の研究者数名見ることが許されない存在なのだ。

彼女は異質忌子にこだわっているわけではないが、担当になれなかったせいか、最近少しイライラしている。

まあ、俺には関係ないことだけれど。

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