第18話 手の魔女 7
手の魔女グルタルとの夜以来、ヨーケルはやがて現れるだろう目の魔女対策にやっきになっていた。不可視の刃を相手にするとなると、どれほど慎重になっても慎重になりすぎることはない。
まず別荘の使用人全員に対し、何かと理由を付けて左手で触れて目の魔女でないことを確認した。画商や遺物商などの来客の対応については、これまで取引のあるなじみの客に限定し、新規の客はすべて断ることにした。
数日後、ヨーケルの別荘に手紙の束が届けられた。作品を世に出して以降、手紙の束が届けられるのは珍しいことではない。配達人から受け取った使用人は、それを仕事の依頼などの手紙とヨーケル個人に宛てた私信とに選り分けたあと、自室のベッドに寝転んでいたヨーケルにそれを手渡す。
私信は少ない。ふと差出人を見ると、アコニットだ。
呼んだ覚えはないが、グルタルが現れ、無言でソファに腰掛けた。
二つの理由で心臓が高鳴る。一つ目の理由はもちろん、憧れのアコニットから手紙が来たからだ。そして、二つ目は、これまでの言動や外見、このタイミングでの私信を考慮すれば、考えれば考えるほど彼女が目の魔女であるからだ。
震える手で封筒の封を切り、折り畳まれた手紙を広げる。きれいな手描きの文字が並んでいる。
日曜日に光の教会にて私の肖像画を描いて欲しいと書かれていた。
「グルタル……」
手の魔女の名を呼び、懸念を述べた。先史文明の発明に詳しく、眼帯をした聖女、アコニット。
「光の聖女が、目の魔女コハクだ」
グルタルは躊躇なく残酷な事実を告げる。
もしかしたらとは思っていたけれど、それは努めて考えないようにしてきた。彼女と出会ったのは、ほんの一年前のことだ。付き合いの長さは、決して長くはない。二人きりで話したのも一度きりだ。しかし、あの何よりも苦しい時期の支えとなってくれた彼女とは誰よりも深く心で繋がっている気がしている。グルタルの手で初めてアコニットの肖像を描いたとき、あまりの感動に放心したが、それは同時に魂がアコニットとつながった故の放心だったと信じている。
そんなアコニットが、グルタルを持つオレを殺そうとしているのかもしれない。そして、グルタルとオレはそれを迎え撃たなければならない。人類のために。なぜ。
長い沈黙のあと、「確かめる必要があるか。偶然ということもあるからな」
心ここにあらずといったふうに呟いた。
「どういう意味だ」グルタルが問う。
しかし、それには答えずに彼はぼんやりと天井を眺めている。
「アコニットは、先史文明の発明に詳しい。そして常に右目に眼帯を付けている」
「すべて目の魔女の特徴に合致する」
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