第17話 アコニットと遺物商
「ごきげんよう」
「ああ、いらっしゃい。もしかしてお待たせしましたか」
大雪が降る日の昼下がり、遅めに店を開けた取引所の店主が、その日一番にやって来た客を接遇する。朝からの雪のせいで客は来ないだろうと思っていた。実際、往来にいつもの活気はないが、店が開くのを待っていた客がいたようだ。
「いえ、お気遣いなく」
「すみませんね。今日は誰も来ないと思っていたもんで。しかし光の聖女様もこんな日にどうしたんです」
「こんな日でもないとなかなか外を歩けないのですよ」
「有名人は辛いですね。すいうことなら、どうぞ、ゆっくり見てやってください。今日は多分誰も来ないので。ここにあるものは目利きが厳選した物ばかりですから少々値は張りますが、その価値は十分にあると思いますよ」
「そのようですね。店主さん」と光の聖女アコニットが微笑む。
「ああ、そういえば、光の聖女様のお噂を耳にしましたよ。なんでもクエン家の若旦那が、光の聖女様にご執心だとか」
「ヨーケルさんをご存じなのですか」
「ええ、もちろん。よぉく知っていますよ。お得意様ですから。若旦那は光の医院で怪我の治療をされたとか。やはり光の聖女ともなると、たくさんの患者から慕われるんでしょうな」
「ええ、そのようですね。ありがたいことです」
「噂じゃ、若旦那の別荘は光の聖女様の肖像画だらけだとか。手の不自由な若旦那にあんな才能があったとは、まったく知りませんでしたよ」
「左目と左手を失ってから、ずいぶん悩んでおられたようですが、あそこまで回復するとは奇跡としか言いようがありません。もし私が何かの役に立つのであれば、それ以上の悦びはありません」
「いや、まったくです。少し前に会ったときはまだ不自由そうにされていたんですがね。ワシもワシなりに気を利かせて、先史文明期の精巧な左手の模型を安くお譲りしたんです」
「ほう。先史文明の左手、ですか」
「はい。それはもう本物の手と見分けが使いないくらいの代物です。ワシは神話になぞらえて手の魔女と呼んでいました。それを譲ってから間もなくして、若旦那の絵が評価され始めたから、本当に手の魔女だったかもしれませんや。もっと高く売っておけばと後悔しとるんですよ。ガハハハハ」と店主は、冗談めかして笑った。
しかし光の聖女は、店主の冗談にクスリとも笑わず、真剣な面持ちで「その話、詳しく聞かせていただけませんか」と尋ねる。
その真剣なまなざしに、店主は抗うことのできない不気味さを覚えた。
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