第16話 手の魔女 6
「なぜもっと早く教えてくれなかった。そうと知っていれば、作品を発表することはなかった。平穏に暮らしたかったのに」
「私としては、あちらの襲撃におびえながら暮らすよりも、こちらから打って出る方がいいと考えた。悪いが、お前を利用させてもらった」
「ひどいやつだ」
「運命だと思ってくれ。その代わりに、私の手は好きに使っていい。我々は運命共同体だ。私の手はコハクに対抗するための武器になる。持っていた方が安全だ」
「今さらこれを捨てることはできない、ということか。なら、そうさせてもらう。それで、対策はあるのか。あんたは目の魔女に出し抜かれたんだろう。うまく立ち回れるのか」
「安心しろ。アレはまったくの不意打ちで不覚を取っただけだ。不覚を取らなければ、私が勝つ」
「すごい自信だな」
「ああ。即断即決が身上の私と違って、目の魔女は極めて慎重な性格をしている。視覚は時に錯覚を起こすから、自分が迷うということを知っている。誰が手の魔女であるかの確信を得るまでは、誰にも手を出さない。逆に言えば、最後の確認のために、必ず探りを入れてくるはずだ。だから、お前に接触しようと近づくすべての人間を、その義手で触れて調べろ。触れればその正体が分かる。手の魔女は迷わない。そして目の魔女なら内側から破壊することができる。だから常に義手は備えておけ。目の魔女は目がいい。義手を見られれば正体を見抜かれて、不可視の刃を食らう。常に手袋で隠しておけ」
「寝るときもか」
「ああ。もちろん」
「分かった。目の魔女を探す手がかりになる外見的な特徴を教えて欲しい」
「コハクの外見は、その時々によって変わる。男か女なのかも予想もできない。ただ、人ならざるものの目を持っているから、噂にならないように片目かまたは両目を隠していると思う」
ヨーケルはとっさに右目の眼帯に手を当てた。義眼を嵌めずに眼帯で覆っているのは、光の聖女と同じでいたかったからだ。
「あんたもゴーグルで目を覆っているように見える」
「私の目は目の魔女に破壊され、もとより見えていない。私が目の魔女だなんてことはないから安心してくれ」
ヨーケルはうなずく。
「ところで、私からも質問したい。お前がいつも描いているあの女は誰だ」
「ああ、あの人は、光の聖女だ」
「光の聖女とは誰だ」
「オレの命の恩人だ」
「そうか」
「それが何か」
「ずいぶん執着しているようで少し気になっただけだ」
「嫉妬しているのか」
「なかなか言うじゃないか。私が必要なときはいつでも呼べ」
そう言い残し、手の魔女グルタルは消えた。再び部屋に暗闇と静寂が訪れる。
座っていたソファに横になり、光の聖女の顔を思いだす。右目を眼帯で覆われた聖女アコニット。まさか彼女が目の魔女ということはあるまい。そう願いながら眠りについた。
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