第6話 義手
この体験を通して、先史文明の技術には人々を救済する力があることを確信した。光の聖女の言うとおり、四肢や目を取り戻す術もあるかもしれないという期待に震えた。その日から、別荘に保管展示されているガラクタともお宝とも分からない蒐集品の中から義手や義眼に使えそうなものを探す日々が始まった。もし、義眼が見つかれば、光の聖女の目も光を取り戻すかもしれない。そう考えると、熱が入る。これに付き合わされた使用人は、内心では意味がないと思いながらも、みなヨーケルを不憫に思い、進んで協力した。とはいえ、用途も使い道も分からない文字通りのガラクタばかりで、幻肢痛を消すことのできた奇跡の粘土以外の成果らしい成果は上がらなかった。
この頃のヨーケルのほとんど唯一の楽しみは、この奇跡の粘土を使った自慰行為だった。この粘土を何かの拍子で性器に当てたとき、しびれる快感を覚えた。彼はそれ以来、心が挫けそうになると、光の聖女の手のぬくもりと、彼女に義眼を贈ることを想像しながら、この暗い楽しみに耽った。
そして、家の中にある先史文明の遺物を一通り調べ終わると、それらが徒労に終わったことを知った。そして遺物商の取引所に通うようになった。遺物商の取引所は、繁華街にある市場であり、いくつかの露店や商店が連なって先史文明の遺物の売買が行われている。ほとんどが素材として流通するので買い手の多くは職人たちであるけれど、研究者、芸術家やヨーケルのような個人収集家、光の教会の関係者など、職人以外の買い手も少なくなかった。ヨーケルは様々なものを買っていくので、店主たちも彼を上客として扱った。彼は足繁く通ううちに、ほとんどの店主たちと顔なじみになっていた。
街中では、奇異の目で見られるため、常に普通の義手を装着して歩く。この義手は、人形職人が作った飾りの手に過ぎない。しかし、これがあるのとないのとでは、人々の反応がまったく違う。幻肢痛が消える自作の義手に比べれば機能は劣るものの、少なくとも街中では、普通の義手の方が都合よかった。
取引所からの帰りには、決まって光の聖女を目当てに光の教会に立ち寄った。光の聖女は姿を見せないことも多かった。身廊に現れるときには決まって多くの信者に囲まれて、信者たちの話に耳を傾けていた。ヨーケルも、現在の自分の状況や光の聖女をどれほど尊く思っているかについて話したいけれど、彼のプライドの高さが、一般市民の輪に加わることを許さなかった。遠くからその様子をしばらく眺め、そのまま帰るのが常だった。
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