第14話 窮兎猫を噛む

迫りくる巨体。


圧倒的な身体強化からくるプレッシャー。


だが、じっちゃんからコツは習ってる。


リソースを溜めて溜めて、相手を限界まで引き付けて。


一瞬にのせる。


そうすることで瞬間的な身体強化倍率はヤツと同じぐらいになる。


あくまで瞬間的。だがそれで十分だ。


じっちゃんは普段からリソースによる身体強化は使わない。


それでもその辺の強化系能力者なら何人だろうが蹂躙できる。


軍部最強さんは、能力から未来を予知することができるから、


コンパクトでスタイリッシュに戦える。


オレも同じことをすればいい。


相手の攻撃を先読みして、溜めた力をドンピシャで当てる。


なーに、じっちゃんの剣術ほどの切れはない。


「じっちゃん、ここまでオレを育ててくれてありがとな。」


強化部位を足に限定し、発動時間を思いっきり絞る。


サイドステップで右ストレートを回避、


左足を軸足に身体をねじり、相手の胸に蹴りを炸裂させる。


神田は吹っ飛び鉄板にめり込む。


「なかなかやるな、坊主。」


頭をポリポリ掻きながら上半身を起こす神田。


しかし、そもそも今回の任務は情報の入手と無事に生還することが目的だ。


別に、今この瞬間に神田を倒さないといけないわけじゃない。


幸い、今はパイプから冷却用のガスが漏れ出てスモーク代わりになっている。


そのまま能力をくしして飛行する。


螺旋階段を一気に駆け上がり受付まで戻ってこれた。


そしてやはり、


「それでは帰りますね。」


「ええ、またのご来場お待ちしております。」


女装を一切疑われることなくこの建物を後にする。



帰ってくると丁度、鏡子姉たちが上空から帰ってきた。


「朱・兎・くーん。」


ムギュフ。


「鏡子姉、苦しいってば、それに当たってる。」


「なーにが当たってるのかな~?」


あっ、こいつ確信犯だ。


「どっせーい。」


能力使用で無重力状態にし上にぶん投げる。


「妹に嫌われてお姉ちゃん、悲しいわー。」


平然とした様子でからかうのをやめない。


洋服もツクモンなので鏡子姉は飛行も可能なのだ。


正直、認めたくはないけど多分オレよりも強い。


「オレは女じゃねえ!!


っていうか、オレと鏡子姉は血繋がってねえだろが。」


「じゃぁ、なんで鏡子姉って呼ぶのよ。」


「それは.....」


「それは?」


「鏡子姉がホントにオレの姉ならなあって。」


「頬赤らめて超カワイイ。お姉ちゃんがハグしてあげます。」


ただ、このようにたまにキャラ崩壊を起こすのが玉に傷。

「朱兎先輩、女装が趣味だったんですね。( ´∀` )」


「ちげえわ。任務のために仕方なくだっての。


てめえはいっぺん殴らねえと気が済まん。」


っは。動けねえなぜだ。


「朱兎ちゃーん。ぎゅう~。」


そーだった~!!この服ってツクモンだったじゃねえか。


オレが自分で着たわけでもねえし脱げなかった。


完全に拘束具じゃねえかよ。


「や~め~ろ~!!」


その日、夕暮れに照らされる布団と三人のシルエット、


オレの断末魔が響く。

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