第2話 大舞踏壊 開演

 入隊試験は治安維持隊ダイニングからでてすぐの(20人で大縄跳びができるぐらいには)広い庭だ。


試験内容はうさちゃんパイセンこと片桐 朱兎と戦闘、善戦すればいい。


ただ、本当にそんなもので良いのだろうか?


俺とて本気で先輩のことを嫌ってるわけではないが、見ろ、あの表情を。


自分が負けるなんてちっとも考えていないあの顔を。


よし、決めた。


「先輩、俺本気で倒しますよ。」


「……ふぅ。いいぜ、できるもんならな。かかってこいよ。相手してやる。」


俺のやる気が伝わったのか、先輩は真剣に戦ってくれるらしい。


口角が上がったままだが目がマジだ。


俺も先輩も普段は能力を使わず、お互いの全力というものを見たことがないのだ。


だから、一度先輩とは全力で勝負してみたかった。なのに、


「朱兎、お前はワシが良いと言うまで能力を使うな。良いな?」


白夜さんに止められてしまった。


不満はあるが、それだけ先輩が強いということなんだろう。


「はぁ、じっちゃんよぉ。それは骨が折れるぜぇ。


憶人のやつもそんなに弱くねえんだよ。


少なくともランクⅧの奴らと同等かそれ以上だぜ。」


「何か問題でもあるか。


お前の実力はランクⅩの能力者と比べても遜色ないだろう。」

 

へぇ、先輩ってランクⅩと大差ないんだ。


……!!??。


冷や汗が額から顎の方へと流れていく。


ランクⅩと言ったらあまりに強さが隔絶してるがゆえに異能力者と呼ばれたり(肉体の老化がとまるというオマケつきだったり)する人たちじゃねえかよ。


やっべえ。


これは白夜さんに物申さなきゃ、


「白夜さん、お願いがあります。


俺が先輩を追い詰められたら、先輩の能力の使用を認めてください。」


そんなに強いなら戦いたい。男たるものそうでなくては。それに対して白夜さんは


「朱兎。憶人一撃もらったら本気出してもいいぞ。」


 と言ってくれた。言質はとった


「先輩、ちゃんと耐えてくださいよ。」


「てめえこそ、一撃も与えられずノックアウトなんてダサいまねすんなよ。」

 

向かい合う俺と先輩、交錯する視線、勝手に力のはいる握り拳。



そんな張り詰めた空気間の中、


「がんばれー憶人。」


「憶人さんがんばれー。」


 

と縁側からの治安維持隊女性陣


「憶人がんばれよー。先輩なんて倒しちまえ。」


という敷地の外からの近所のおっちゃんたちからの声援が俺の緊張をほぐしてくれた。



「ひとりぐらい、オレの応援をしてくれたっていいだろうがよう。」


 こうして、やる気に満ち溢れた俺VS拗ねちゃった先輩の戦いが今始まる。 

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