第3話 大舞踏壊 序

「はじめ。」


白夜さんの合図で戦闘が開始する。


急接近しては拳を振るい、手のひらで相手の拳を流したり、フェイントをかけたりする。


お互いにその場その場で動きを変え相手に行動を読ませず、しかし最低限意味のある行動を心がける。


そうしないとすぐに負けてしまうような相手だから。


この緊張感が俺にとっては心地いい。


しかし、それもひとえにギャラリーが応援してくれているからだ


だが先輩はというと


「憶人がんばって、勝てる勝てる。」 


 アウェーにも負けず


「そんなチビ助やっちまえ。」


 陰口にも負けず


「「うるっせーよ。黙ってろ。」」

 

というわけにはいかなかったようだ。


かなりストレスが溜まっているらしく、力任せに突っ込んできた。


先までの近接戦によって深く集中していたから避けることは出来たが、


「さすが先輩、ちっこいこと以外はほんとに欠点がないっすね。


身体能力も人外じみているしさぁ。」

 

少なくとも、俺と先輩じゃあ素の力が違う。勝てる気がしない。だから、


「本当はもっと後、少なくとも先輩が能力のリソースを使って身体強化するまでは粘りたかったんですが仕方ないっすよね。」


俺は先輩より一足先に異能の力を行使する。


虚空に指先から外周を円で覆われた幾何学模様を生成する。


両方の手で幾何学模様は重なるようにして縮小、拡大を4回ほど繰り返し、俺は唱える。


身体強化二倍ブーストダブル八重掛けオクテッド

 

異能は異能でもこれは能力じゃない。


察しのいい人ならもうわかるだろ?


ランクⅩー異能力者はそうポンポン沸いてこない。


ならなぜ?魔夜は老けていない?


15年も経ってるのに。


俺はそれを知っていた。


「おいおい、そんなの隠してたのかよお前。」


「まさか、魔夜さんから習ってたのかよ。」


先輩は気づいたらしい。


「魔法を」


魔夜さんは魔法使いでこの5人の中でも最年長。


『魔法使いの一夜』って童話があるぐらいなのだ。


魔夜って名前から魔法使いを連想できる人もいるだろう。


ただまあ、先輩の推理には一つだけ間違いがある。


「そんなに立派なもんないですよ。これはただの魔術っすよ。それも基礎の。」


だけど、格闘できる奴が身体能力を強化して戦うのが一番厄介だろ。


対処法なんてないんだから。


それはあんたがよくわかってるだろ。


「先輩覚悟してくださいよ。今の俺は先輩が思ってるよりずっと強い。」


「「ドン!!!!!!」」

 

庭の芝が土ごとえぐれる踏み込みをし、そのままの突っ込む…と見せかけてもう一度先輩のすぐ目の前で地面を強く蹴りサマーソルトを決める。


「うおーー!!」


「すっげー。」


「朱兎君、たーまやー。」

 

歓声が上がる。


だが、こんな簡単にくたばるほど先輩は弱くない。


吹っ飛ばした先、庭のはるか上空を眺めると、空中にたたずむ先輩がいた。


大舞踏壊ブレーキングダウンダンスホール。」


先輩がそう言って、重力加速度を無視した速さで落ちてきた。


かと思えばそっと着地して俺らは再び対峙する。


「こっからは能力を使ってやる。言い訳はしない全力だかかってこい。」


「こっちこそ、今からは本気っすよ。」


やっと始まる能力者同士の本物の能力バトルってやつが。

 


 

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