始まるホームレス生活

 会社を辞めた後に待っていたのは両親からの冷たい拒絶でした。出て行け、と明確に告げられたわけではありませんが、出て行くしかないような雰囲気を作られ、また、僕も仕事で精神的に疲れ切った中でこの二人の毒親と共に過ごす事は生理的にも不可能でした。


 僕は、家を出る事にしました。それは決して決意と呼べるような高尚なものではなく、現状からの避難でした。中学生の頃に買ったエナメルのスポーツバックに三日分の下着と一日分の着替え、そしてスマホの充電器を入れ、両親が仕事で家を留守にしている時に経ちました。


 貯金は確か三十万円程ありました。家を出た初日に食べた物は新しくできたパン屋さんのメロンパンだったことを覚えています。涙をこらえながら公園のベンチで食べました。でも多分、泣いてたと思います。


 とても惨めな気持ちでした。世界で一番不幸な人間になった気分でした。帰れる家が無い。天涯孤独故のホームレスならまだ諦めがつきます。僕の場合、帰れる家があるにも拘らず、それが出来ないのです。


 親が居ながら、その親に助けを求める事が出できない。親を頼ることができない。親を信じる事ができない。これほど不幸な事はこの世にありません。親とは人の最後の砦であるべきなのです。


 知人は多く、頼めば泊めてくれる人や助けてくれる人も居たでしょう。しかし、それは出来ませんでした。迷惑を掛けたくないという思いももちろんありましたが、何より、今の自分の恥ずかしく情けない姿を見られたくなかったのです。


 季節は一月。外はとても寒く、僕は堪らず近くの図書館へ逃げ込みました。図書館は空調も完璧で、給水器もあり、とても理想的な生活空間でした。しばらく日中は図書館で過ごす事になりました。


 問題は、図書館の開いていない時間にどう過ごすかでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る