第38話

本気の初恋かあ。


たぶん、おれはリアルから目をそらしたよな?


って思う瞬間はある。


受験生になった中3。塾と最後の中体連にむけて、そんなに強豪でもない田舎の中学のサッカー部のキャプテンで忙しかったあの日。


ラッシーを追い越す勢いで猛ダッシュする春馬のあとをつけて、まったくすれ違いにみえて、

けど、あの日、はじめてみた神城の微笑みは、ただ俺の脳裏に焼きついた。


ほんとうに脳に、記憶に、焼きついた。


彼女とかできて、素知らぬ顔で神城が主演のラブストーリーとか映画館で見たけど、あの日の神城とは違う。


いうなら、もう俺の知らない、


ー神城明日菜。


そういう名前の俳優だって思った。


あの日の神城とはまったく一致しやしない。


知らない、だけど、確かな存在感で他を魅了する。


圧勝するんだけど。


(あの頃も神城の目には春馬なんだな?そして、春馬にも)


苦笑いすら、でない。


「かっこつけなきゃいけないだろ?俺は春馬の兄貴だぞ?」


俺の弟は絶対に変じゃない。俺が頑張れば、きっとみんなだって、春馬のすごさをわかってくれる。


そう信じて頑張ってたのに、あっさり、アイツは俺なんかを追い抜いて、修学旅行なんて、コロナ前は、そこらじゅうに転がってたイベントで、


1夜にして有名人になりやがった。


人生の大どんでん返しをしやがった。


「なんだよ?俺だって長男だぞ?妹たち守るぞ?けど、振られっぱなしだぞ?」


「けど、立派な後継って言われてるわよ?」


「なら、なんで俺は真央しかいないんだよ?元カノ」


「いまだに忘れてないからでしょ?逆恨みしないだけマシだけど」


「村上だけは許せねー。って弟のほうだぞ?なんの努力もしないで、あっさり真央を俺から奪いやがった」


「いや、あいつは神城だけだぞ?むしろ、柴原はサポートだろ?」


「けど、許せねー。なんで、村上ばっかりモテんだよ!」


「まあ、同感だな」


「よくあんなやつの兄貴やれるな?」


「…春馬が俺を兄貴って思うかは、べつだけどな」


いつのまにか、アイツのほうが先に歩き出したし。


「ちくしょう!真央が幸せなのはいいけど、悔しくて仕方ないけど、なんか、村上が幸せなのは、ムカつくんだ!」


「柴原と春馬は無関係だぞ?」


「名誉毀損で訴えてやる」


「誰を?」


「みんな俺が言ってるみたいに言う知らないやつら」


「相手にすんなよ?俺から言っておいてやる」


中学時代の友人Aとか、真っ先にコイツになるよなあ?


しかも悪意的なやつなら。


俺は赤木に同情しながら、いい加減だよなあ、昔から、噂って。


噂自体が都市伝説じゃね?


って思った。

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