第37話
ハイボールをメガジョッキで呑みながら、俺は赤木のことが、さっぱりわからない。
「初恋かあ」
って呟いたら、ママさんが目の前で笑う。
「経験ないって顔ね?相手がきてくれるから、なんとなく?みたいなパターンばかり?」
「まあ、そうですね。意識してつきあうとかなくて、そのうちなんとなく別れるパターン?俺はあんまりマメじゃないらしいです」
イベントにはつきあうけど、相手が忙しいなら、べつに、イベントにこだわらなかったら、フラれたパターンもあった。
「あっさり系が多かったですね。逆に真面目なタイプは手が出せないかも?相手に寄り添ってやれるタイプじゃないって自覚あるんで」
大学時代に留年経験してから、俺が無意識に作り上げた完璧主義は崩れた気がする。
いま思うと、春馬が地域でなく県でいちばんいい学校に合格したのも引け目があったんだろ。
俺が卒業した大学だってレベルは決して低くないのに。
春馬が高校になってから、ほとんど顔をあわせることも減ってた。
俺より柴原の方がずーっと春馬の近くにいただろうし、見るたびに背が伸びて、誰もが認める外見上はイケメンで。
春馬が俺の弟だって言っても、みんな納得していた。
中学時代の春馬から一気に評価が変わっていたけど、春馬は家では無口で、ラッシーといる方が多いのは変わらなかった。
毎日、誰かと電話していて、たまに聞こえる声は女の子で、家族は柴原だろうと思ってた。
春馬も自分から彼女用にスマホ買いたいって言ったくらいだし。
けどいま思うと、柴原なら新しいスマホを欲しがる理由なかったよなあ。
生徒会でやりとりしていたみたいだし。
「あなたも赤ちゃんみたいに合コンに参加するの?市内の中心は開けてるけど、この辺で暮らす若い子なんか少ないわよ?」
「10号線沿いはひらけましたね。びっくりですよ」
「その代わり、同じ市でも過疎化が進むわよねー。まあ、便利な場所に、求人需要も活気もあるし、仕方ないわよね?」
歩けばのどかに牛の鳴き声がきこえて、独特の香り漂う場所は、高原インターをおりてからも、変わらない風景だけど、墓参りに行ったら、お墓の数が減っていた。
増えたんじゃなく、減っていくんだな?ってなんか物寂しい気持ちにもなった。
あとを継ぐ者がなければ、墓も途絶えてく。
わかりきってはいたけど。
うちの血筋は、春馬が次代に残すだろうけど。
(俺はどうだろ?浅井さんや森野さん、先輩はどうなんだろう)
「柴原さんとこも、3人娘はみんな福岡に嫁いでるわよね。和菓子屋さんの職人さんたちの誰かが継ぐんでしょうけど」
「まあ、春馬の会社は外資だから、海外もあり得るでしょうね。赤木には悪いけど、春馬の結婚式でみていたら、柴原はほんとうに幸せそうだったし、外見はともかく、中身はやっぱり無理かなあ?」
外見だと赤木だろうけど、なんというか、春馬がイケメン先輩と慕うその人柄は、やっぱりイケメンだと思う。
「けど、俺みたいに都会から戻ってくるやつもいるんじゃないすかね?」
「けどお嫁さんが希望したら、街中に住むでしょ?」
「そう、かなあ?」
(先輩はあまり気にしない気もする)
ママさんがニコニコする。
「やっぱり意中の人が?」
「いても誰だか言わないですよ?だって親父も通ってるんでしょ?」
「ちなみ貴方のお母さんもね?仲良いわね?」
「うちの家系は、俺以外はわりと一途ですね。じいちゃんがそうだから」
「貴方も本命ができたら、一途じゃないの?」
「俺から浮気はないけど、相手には自由かも?」
(って、これ浅井さんのセリフじゃね?)
「俺は本気じゃないんですかね?」
さっき浅井さんに違和感抱いたくせに、これなら、俺もか?
俺がちょっと戸惑ってると、また赤木がガバっと突然、顔あげて、喚いた。
「ちくしょう!みんなカッコつけやがって!余裕ぶってたら、こうなるぞ!」
ってグラスをあおりまたうつ伏せた。
「…余裕なんかねーよ」
って俺はぼやいたんだ。
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