第21話


(イケメンだけど、こいつじゃダメだな)


俺は内心でため息ついた。目の前のイケメンが朝陽を狙ってるのは、わかったけど。


俺はついため息をついた。駐車場から朝陽の軽自動車のエンジンの音がする。発進する音まできちんときいた。


そもそも花音の話し声がきこえなくなった。幼い頃からききなじんだふたりの声は、さすがに覚えてる。


(成人式に帰省した同級生たちにびっくりはしたけど)


あまり変わらない朝陽や花音を見慣れたせいか、別人みたいな化粧や格好にびっくりしたよなあ。


かなり俺自身がなんか幼く感じて、外行ってるやつらが大人にみえたよなあ。


地元から離れて知らない世界で働いたり、学生すんのって大変そうだしな。


べつに俺だって、こっちで頑張ってるけど。なんな違うんだよなあ。


変わらない朝陽と俺と、地元のやつら。少子高齢化や過疎化を肌で感じながら、


(いや、どうしようもなくね⁈)


って思うけど、こんどの合コンイベントがどう作用すんだろ?


(追いかけて都会に行くやついないのか?)


…あまり考えないどこう。


旅行とかと、実際に住むってなると、違うしなあ。


狭い日本がやたら広かった?みたいな?


明日菜が有名になった時も、たまにみる東京の人の多さにビビったよなあ。


映像だけで怯んだけど。俺はニュースで見たなら、わざわざSNSとかで、そういう動画をサーチしないけど。まわりにしてるヤツがいて、おもしろがるわりに、必ず怖がってるし?


奇妙な悲惨なリアルが混同するくらいなら、やめとけばいいのに。って思うけど、もうそういう世界になってる。


一定数は絶対に混同しちまうんじゃねーの?なんのために報道規制とかがあると思うんだ?はだしのゲンがどころじゃなくね?


…もう違う対策がいるけど、規制は絶対的に無理だし?


俺がもし結婚してガキ産まれたら、どうやって守り伝えていけばいいんだろ?


(明日菜が幸せそうだからいいけど。朝陽の心配はいつもネットに晒される妹だしなあ)


反撃したって、擁護したって、捻じ曲げられる。もう何も言わないのに、誰も言わないのに。ただ明日菜が大切なのに、そう泣く朝陽を何度も慰めたけど。朝陽がなくのは、悔しさだけど。


「俺、なんかやりました?」


目の前のイケメンが少し戸惑い気味に言う。誠実そうには、見えるけど。


朝陽に幸せになって欲しいは、俺や花音たちの想いだけど。


「やらかしたよなあ?朝陽は、朝陽自身にアピールされたら、無意識に明日菜を守るために警戒するんだよ?」


「えっ?神城?」


「ほら、それだよ?この地域で神城って言うと、もう明日菜になるだろ?神城明日菜が先にきちまう」


いつからだろう。朝陽は笑うしかなくなるようになった。すべてを受け入れて、ただ明日菜のために、大都会でただひとり、


(やっと狭い世界から、逃げ出せた妹のために、地元でひたすら笑う朝陽が泣かないわけない)


誰よりも家族思いの朝陽が、泣かないわけないけど。


「朝陽を狙ってるなら、おまえは、ものすごいストレートしかないぞ」


だけど、


「朝陽を傷つけてくなら、俺や花音たちが黙ってないからな?それでも朝陽を狙うのか?」


俺は村上竜生をまっすぐに見た。



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