第20話


「うちに泊まるって、いつから?今夜は久しぶりだし、颯太とデートでしょ?」


って先輩はいつもと同じテンションできいている。話の内容的に、なんかいつもの先輩なら、もっと揶揄いそうだけど。


俺が遠距離中の彼女が突然、会いに来てくれたら、浮気とかしてない限り、めちゃくちゃテンションあがり、仕事をドタキャンしそうな怖さはあるが、それくらいずーっといたいよな?そばにさ?


(春馬は、外泊しようとしたらしいが)


やっぱりアイツの思考は謎だけど。


またため息でそうだ。こんな時でも俺は春馬をつい思い出してる。


(どこまで、ブラコンだよ?)


内心でうんざりしながら、会話を見守る。


「うーん?もう遅いし、朝陽のお家で話したいかなあ?」


「いいけど、うち男性禁止だよ?颯太でも、うちに入れないよ?」


「うん、颯太は明日でいい?」


チラッと森野さんが浅井さんをみる。浅井さんは苦笑いした。


「いちおうそこは、俺に確認とるのかよ?いいよ?朝陽の残業分、俺にまわして帰れよ?」


「ラッキー!ありがとう」


「…少しは気をつかえよ?」


「颯太に使ってもしょうがないでしょ?そもそも颯太が言いだして、颯太の彼女の花音からの頼みだし?」


「おまえ、ほんとうに、そういうところだけ、やたら頭の回転はやいよなあ?」


「だって花音、今回は少ない時間しかこっちにいないでしょ?

 女の話は、湧水だよ?涙もかなあ?」


(…涙?)


俺は先輩と森野さんを見比べるけど。


「えっ?先輩でも泣くんですか?」


つい口にしたら、思いっきり、浅井さんと森野さんがあきれた顔で俺をみてきた。


「朝陽は、わりと泣き虫だよ?」


「花音ほどじゃないけど、わりと泣くよなあ?」


って言うふたりに、


「最近は泣かないけどね、幼馴染だから、黒歴史もよく知ってるんだよね」


って相変わらず先輩は明るく笑う。


(そりゃあ、そっか)


俺だって、ガキの頃どころか、大学一年の頃、両親の前で大泣きしたのよな?


(俺の方が泣き虫かも?)


まあ、大人が泣かないわけないかあ。まだまだガキだけど。最近、春馬をみてると、春馬には守るべき存在ができたからか、なんか余裕がみえる。


よくわからないけど、春馬には新しい居場所ができたみたいにみえる。


まだ、俺には結婚とかピンとこないけど。ひとりが気楽だと思い込んでた春馬が結婚して、なんか胸がざわざわしだしたのは、たしかだ。


し、


(しあわせそうじゃあるよなあ)


この年だし、恋愛経験なかったわけじゃないけど。


あのタイミングで先輩に会ったから、幸せに憧れたんだろうか?


タイミングが違ったら、俺は違う誰かだったのか?


けど…。


なんか悔しいなよな?森野さんは、ともかく。そりゃあ、過ごした時間分仕方ないけど。


(浅井さんになんかムカつく)


これが嫉妬ってやつか?


目の前の決してイケメンじゃない、けどなんか先輩とお似合いにみえる浅井さんに、俺はいまムカついてる、


そんな俺を見透かしたように、浅井さんがぼつりとつぶやいた。


「勘弁してくれ?花音だけで、腹一杯だ。へんな勘繰りはやめろ?」


「花音、最強だよねー?」


「朝陽、おまえのその鈍さも原因だ」


「そこは同感です。俺、先輩に告白したんすけど、コーヒーに間違えられて、スルーされました」


ついぼやいたら、森野さんが、


「えっ⁈朝陽、またやったの?よーくみなよ⁈こんなイケメンなかなかいないよ?どこがダメなの?」


「だめ?ブラックコーヒー苦手だよね?なんで、かっこつけたの?」


「いや、あの流れで、俺にどうしろと?いや、先輩、わかってます⁈」


「コーヒーの話だよね?」


キョトンとしてる先輩に、幼馴染のふたりが盛大にため息をついた。


「…そんなことしたなら、ムリか」


「朝陽にプロテクトかけちゃったね?」


浅井さんが、ぼんって俺の肩をたたき、


「俺の残業つきあってくれ?ひとりでこんな古い建物いるの嫌だ。花音、じゃあ、明日な?」


「うん、朝陽、帰ろう?たくさん話したいことあるんだ」


「うん、わかった。じゃあ颯太、ごめんけど、残りよろしくね?後輩くんもまたね?」


「…はい」


よくわからないけど、なんか断れない空気感が先輩以外のふたりからすごいし。


どうやら俺はなんかやってしまったらしい。とだけわかった。





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