第18話


ものすごい高周波に、俺の耳がキンキンする。


大絶叫とは、違う破壊力だ。


そういえば,音ってすごいよなあ?


って思いつつ、俺はちゃっかり耳を塞いでる先輩と浅井さんをみる。


ネームにある、浅井颯太。少しぼっちゃり気味の素朴な青年、とくに垢抜けてもないけど、おだやかそうだ。


まあ、先輩たちのやりとりは、のんびりしてるし、うちの地元に残ってるやつらも、都会とは少しスピードが違う。


もちろん忙しく働いて、仕事にやりがいは同じだろうけど、俺は東京でいつもなんかガードしていた気もする。


(落ち着く組み合わせだよなあ)


って思いつつ、なんか、感想とは逆に、


(絶対に、面白くない)


そんな俺に気づいた花音と呼ばれてる垢抜けた美人が、俺をみて、


「ね?おもしろくないよね?」


「たしかに?」


浅井さんはいい人そうで、先輩となんだかのんびり穏やかで、


(お似合いのカップルに見え過ぎて、面白くない)


だから、建物の入り口で森野花音って名乗ってたな。森野さんは面白く無さそうな顔をしていたのか。


俺の脳裏に弟の親友をおもいだした。あっちは、よく一緒にいるし、仲良かったけど、ここまでお似合いではなかったな?


「あれ?後輩くん、あの大絶叫がだいじょうぶなの?」


「すごいな?」


「颯太と朝陽が大袈裟なだけだよ?ね?」


いや、ふらないでくれ?俺の耳がいまだにキンキンだ。


「いや、花音。絶対にみんなに迷惑だから、その絶叫はやめろ?ドラク◯のおたけびみたいな、破壊力だ」


って浅井さんが代弁してくれる。


「私たちは慣れてるけど、花音、気をつけよね?」


って、先輩にいわれて、森野さんは横を向きつつ、ぶすくれた顔で、


「わかってるわよ。ごめんなさい」


って俺に罰の悪そうな顔で謝ってきた。なんか素直な人だな?


「あっ、いやだいじょうぶです。俺の弟も小さな時はかなり、すごかったんで」


春馬が落ち着いたのは、いつからだろう。一緒になってふざけてたじぃちゃんが亡くなってからか?


まあ、ここまでの破壊力はないけど。ただ無意識に口にしていた。


「ダブルデートはいいですけど、遊園地はパスしたいです?」


「だいじょうぶ。花音つれて、それはない」


「心霊スポットもないよね?」


「映画館もないな?」


「カラオケなら防音だよ?」


わりと言いたい放題の先輩と浅井さんに、となりの美人はぶすくれたまま、黙ってそっぽむいてる。


「カラオケにする?花音?」


「カラオケはいや」


「じゃあ、どこ行きたいんだ?って言っても、あんまり時間ないか?法事で帰ってるしな」


「そうだね、私たちも仕事だし」


「朝陽のところに泊めて?」


「うん、いいよ?」


「ありがとう」


「えっ?そこは浅井さんでは?」


俺はつい口を挟んでしまったけど。


「俺は実家暮らしだから、家族がいる。さすがに独身の花音を泊める環境にない」


「つきあってるのを内緒にするからだよ?」


「内緒にはしてないが、仲のいい幼馴染でなぜかうけとられる」


「颯太、誘われてたよね?こんどの合コンイベント」


「朝陽もだろう?」


「そうそう、断ったら、なぜかやっぱり颯太とつきあってるのか?って生暖かい目でみられたよ?幼馴染は変わらないのに、なぜか、私たちの方がカップル扱いされるよね〜」


「だよなあ。まあ、ほとんどのヤツが外に行ったもんな」


「何人かはもう結婚して、子供いるもんね?年賀状みてたら、びっくり?みたいな?」


「あー、たしかに。まあ、元気そうでなにより?」


「えっ?誰かまた結婚したの?」


って森野さんが、話にくわわる。が、


(この組み合わせなら、先輩と浅井さんだろう。浅井さんと森野さんは、先輩がいなきゃ成立か?)


ようは、先輩と浅井さんはしっくりくる。


「先輩、まだ仕事が残ってるんですか?」


「あっ、ごめん。って、なんか不機嫌だね?後輩くん、またコーヒー飲んだの?」


「いや、ただ面白くないだけです」


似合いすぎのふたりの雰囲気に、面白くない。


チラッと目をやると、森野さんが同じように複雑な顔でふたりをみていた。


たしかに。


これは、意味なく嫉妬だな。


って俺も思った。まったく浅井さんと先輩は、幼馴染としての会話しかしてないし、森野さんが彼女はまちがいないけど、


(俺より先輩の横にいて自然だよな?)


は、わかるから、ただの嫉妬だな。たしかに。


俺は面白くない。



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