うつつの世は五十年

アサヒケイジ

 菅野輔五郎

 男の目が血走っていた。目の前の雑兵をなぎ倒しながら、菅野輔五郎は愛馬、春で駆け抜ける。目指すは本陣柳野光左衛門の首。「まて!」呼びたる男。「名は斎藤騒兵衛!」「菅野輔五郎!」斎藤の刃がギラリと輝く。その色は真っ直ぐな赤で、血の匂いが官能的になる、まるで女体を初めて抱くときの精液の量が致死量に比類するほどの官能的に。神様がいるとしたらこの国では多神教でエロスの神も、ほほえみ狂うほどの愛おしさでその刃を舌が切れようが構いなしに舐め続け、夕闇の底でまた無明のいざこざサマになる、ヤクザノシモノカミも彼らをながめ給え夢景色、さらば苦しみの重席を。島々はカーニバルで夜は明けない、苦しゅうない、柳野のニヤケ顔一人前の皿うどんをデザートのごとくに、午後7時7分、怒りより愛を込めて。口内炎がごとく漢王朝の朝も夜の寂しさに。当然呂布は一番か十八番か、すべての三國志ファンにおくる、極上エンターテインメント。愛を、憎悪オオオお。菅野はその刃に亡くなった姉を思った。二人いた。一姉は猫をかぶるのが好きであった。そのくせ飯をくちゃくちゃくらうとすぐ便所へ向かい臭い大便をする。魔性の女。裁きの刃はすぐそこだ。二姉はヒステリックにセイエイエー。ロマンチック。口内炎が熱く溶岩を思い起こさせる。右手に宇宙を左手に豚肉を。サササの子。ヒメイカ悲鳴野火名、裸族の香りことごとく彼方へ見ゆるは夢の果、死に場所はここじゃない、柳野の頭には、その片隅にそれがあった。死病を得て気づく。薬に頼ルナ。夜は空蝉のハラハラ最中たまよう、みぞれのうちにそれあろうとも金谷聡それまでか、人生冷奴のごとく。姉ちゃん夢のごとく、三木武信、和田是延、芳村夏雄悲しや悲しやそれはな、行方知らずの子供がおってのお、これからというときに友香という山賊に殺されたそうじゃ。それは残酷な山賊に。右足をおられ、腰をめちゃくちゃに、首までしめ、呪い殺した掃除。沖田総司。飯食ってから腹減るよな。よう、姉ちゃん。元気か? 今この手紙を書いているのは自衛隊横須賀基地でだ。訓練はきつい、でっけえ銃持ってこう、シャーと走って、曖昧模糊たる阿頼耶識の通念のまた認識が彼を一層苦しめた。でもマー、シャーないか。糞の掃き溜めみたいな家庭よりかはな! 第一支部応答せよ。夢へ出動だ。あのー空のー雲ーをー抱きーしーめーるぜー、俺の夢はでっかいぜ。サヨナラホスピタリティー、サヨナラテロリスト集団。

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