第6話 カフェ 1
財満はフレンチレストランを出たあと、すぐ近くのカフェに移動していた。このカフェは安価でカジュアルなチェーン店の割に落ち着いた雰囲気なので、彼が好んで使っている。この店舗に来るのは初めてだが、店のシステムはよく知っている。レジ前のショーケースの中にサンドイッチなどの軽食やケーキなどのデザートが並べられているので、食べたいものを自分で取ってレジに持って行き、ドリンクを注文したあと、精算してから商品を受け取って席に着くシステムだ。サンドイッチ類は安いのに、味が悪くなく、気に入っていた。
レストランでは、バゲットを二切れ、サラダ、スープ、合成鶏のコンフィしか食べていない。財満はまだ腹が減っていた。玉子サンドとBLTサンドを一つずつ選んで、手で掴み、そのままレジへ持って行く。
「いらっしゃいませ。あと三十分ほどで閉店になりますが、店内で過ごされますか」
「あ、もう閉店なのか。じゃあ、持ち帰りで」
「はい、かしこまりました。ではドリンクは何になさいますか」
「いらない。サンドイッチだけでいい」
財満がそう答えると、レジの女性店員は申し訳なさそうな表情になる。
「申し訳ございません。当店はワンドリンク制になっておりまして、こちらのサンドイッチは、ドリンクをご購入いただかないと、ご購入になれません」
「どうして単品で買えないんだよ。サンドイッチだけ売ってくれよ。ちゃんと金は払うんだからさ」
「こちらのサンドイッチの価格は、ドリンクを購入していただくことを前提に設定されております。なので、サンドイッチだけの販売はできかねます」
「オレは何度もこのチェーンの別の店舗を利用してるけど、そんなこと言われたことないぞ。なにか勘違いしてるんじゃないのか」
財満の顔が、みるみる紅潮していく。このチェーン店は昔から全店舗でワンドリンク制なのだが、財満はいつもコーヒーと一緒にサンドイッチを買っていたので、このチェーン店がワンドリンク制であることは、今日初めて知ったわけだ。なので実際、サンドイッチだけの販売はできないと言われたのも初めてだった。しかし、常連にもかかわらず、ぞんざいに扱われたように感じ、それが財満のプライドを傷つけた。
「お前、アンドロイドか」
「はい」
「アンドロイドじゃ、話にならん。人間の責任者を呼べ」と怒鳴りつけた。先ほどのレストランと同様、店内の客が、なにごとかと財満を注視したのは言うまでもない。
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