37杯目 夜の決闘
【ゴァアアアアアアアアッ!!】
ギィン!! ガィン!! ギュアンッ!
激しい攻撃を猪突で防ぐ、一撃一撃に俺への恨みと激しい怒りが乗せられて、疾く重い。
【ガァアア! ゴアアアッ!!】
しかし、敵のダメージはでかい。
ボロボロだ。それでも、激しい怒りを原動力に俺を殺すために苛烈な攻撃が続く。
全て致命の一撃なので、気が抜けない。
【ギャアっ! ギャッ!】
後続のコボルト共も開いた入口から入ってきた。
まずいな、このままだと、挟み撃ちになる。
俺は立ち回りながら位置を変えようとしたが、ワーウルフの行動は俺の予想とは異なった。
【ギャアアアッ!!】
雄叫びとともに、ワーウルフはコボルトに襲いかかり、その肉を喰らい始めた。
突然のことにコボルト達も呆然としていたが、2体目に喰いかかると逃げ出す素振りを見せた。
【ワオオオオオオォォォォーーーーン!!】
一際大きな雄叫び、ビリビリと空気が震える。
その雄叫びを聞いたコボルトたちはだらりと手を下ろし、ゆっくりとワーウルフの元へと歩いていく。そして、一体、また一体とワーウルフに捕食されていく……
「な、何が……」
ボコリっ。
ワーウルフの肉体が変化していく。
炭変化していた皮膚がズルリと落ちて、その下から真っ赤な肉が盛り上がって来る。
ぼこっぼこっ
気持ちの悪い音と共にワーウルフの肉体が膨れ上がっていく、その異様な光景に俺は身体の自由が効かないことに気がついた。
しまった、さっきの咆哮か……精神を集中し、咆哮による拘束に抵抗する。
少しづつ指が、腕が、身体が動くようになっていく。
「うおおおおおおおおっぅ!!」
バツンっと呪縛にレジストする。
今襲われていたら、100%死んでいた。
しかし、ワーウルフは俺の事など無視して列をなしているコボルトやウルフを貪り食って肥大化していく。
「まずい、嫌な予感がするっ! うおおおおっ!!」
咆哮への抵抗をしながらワーウルフに攻めかかる。
【ガアアアアァァァァッ!!】
ぐるりとこちらを振り向き、今まで最大の音による衝撃波が俺を貫いた。
振るった猪突がその音の壁を叩き壊してくれたが、同時に俺の身体は吹き飛ばされた。
ゴロゴロゴロと地面に叩きつけられ崖の壁まで吹き飛ばされる。
「くっ……」
猪突を支えに立ち上がるが、耳が悲鳴を上げて眼の前に景色が歪んでいる。
これは、厄介すぎる。
俺は綿に水を湿らせて耳に積める。
キーーーーーーンと耳が鳴っているが、ほんの少しはマシだろう……
相変わらずワーウルフはふらついている俺なんて興味もないかのようにとにかく食べまくっている。共食いはたまにあるとしても、この光景は異常だ……
まずいと頭では理解していても身体が言うことを聞いてくれない。
猪突猛進の回復力によって少しづつ身体の自由が効いてくる。
ポーションを数本飲み込み、ようやく戦える状態に回復する。
「がはっ、咆哮だけでこれかよ、そこまで強いのかアイツラは……」
月明かりが更に強くなり、はっきりとワーウルフの姿を照らし出す。
「なん……だ、あれは……」
そこにはワーウルフなど居なかった、肉の塊がコボルトを喰うのではなく、吸収していた。
そして、ブルリとおぞましく肉片が震えると、ギュンッと筋肉が収縮するがごとくにソレが圧縮された。
そして、形をなすと、それは間違いなくワーウルフの姿に見える。
しかし、その大きさが、おかしい。
ワーウルフの有に2倍には達していた……
「捕食による、存在進化、だと……?」
この急激な変容は、それしかないと頭では理解して言葉にしたが、馬鹿げている。
魔物の存在進化なんてそれこそおとぎ話レベルで、あるかも知れない可能性が示唆されている程度の事だし、一番多いのは大きな集団の長がキングなどへの変化で、今回みたいに文字通り上位種への変化なんてお目にかかったことはない。
「グレートワーウルフとか、冗談だろ……」
【マタセタナ、ニンゲン、キサマヲ、ゼッタイニ、カクジツニ、コロス】
その声は人間の本能的な恐怖に訴えかけるおどろおどろしい響きを持っていた。
耳栓をしていても、脳みそに響いてくる声だ。
ああ、間違いない。
魔獣だ。
人語を理解し、魔法を扱う、魔物とは一線を画す上位の存在。
一体で人間にとって強大な脅威となり、冒険者に取ってみれば絶望の対象だ。
「ワーウルフの街が、可愛く見える化け物を生み出しちまった……」
【ユルサンゾ、ニンゲンっ!!】
「なっ、消えっ!!」
ほぼ、賭けだった。
目の端に少し動いたような気配を感じたから、後ろに飛びながら右に猪突を思いっきり振り払った。
キィン
甲高い音が響き、さっきまで俺のいた場所を薙ぎ払う巨大な爪。
俺は猪突を弾かれ螺旋状に回転しながら地面を転がる羽目になった。
すぐに立ち上がるが、猪突をもつ腕が軋み痛み、ビリビリとしびれている。
【カンタンニ、シヌナヨ、タップリ、イタブッテヤル】
血の気が引いていく、身体の芯が冷えていく。
次元が違う。
挨拶代わりの軽い一撃を全力で払って、もう、腕が悲鳴を上げている。
動きは運良く残渣を目端で捉えたが、無理だ。
月明かりで見えるような物ではない……
「うおおおおおっ!!」
俺は次から次へと湧き出てくる弱気な考えを振り払うように、雄叫びを上げた。
生き残る。
どうにかして、なんとかしても、生き残るんだ!!
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