14杯目 相棒

 待ちに待ったこの日がやってきた。

 俺はもう待ちきれず、店の開く前から待機している。


「あ、ゲンツさん、もしかして待ってたんですかい?」


「ああ、待ちきれなくてな」


「わかります、さ、どうぞ」


 お弟子さんが扉を開けてくれたので中に飛び込むと、中央のカウンターにお目当てのものが飾られていた。


「なんだよ、もう来たのか?

 せっかく少し飾っておこうと思ったのによ」


 親方は文句を言っていたが、もう、俺の耳には入っていない。

 そこにあったものに目を奪われていた。

 雄々しくそそり立つ棍棒、それと、なんと上品に仕立てられた革鎧。

 そこにあるだけで、エネルギーを感じる。


「大型魔物の素材で作る武具は良いよな、なんというか、生き物だな」


 久しぶりの大型からの精錬で親方は機嫌が良かったと後でお弟子さんに聞いた。


「グレートボアの棍棒、猪突。そして同じくグレートボアの毛皮で作った鎧、猛進。

 ネームド、つまり、魔武具だ。

 シルバーになるし、ネームド装備も手に入れて、すげー冒険者になったもんだ」


 あるレベルを超えた魔物から作られる武具は強い力を持ち、さらに一部の武具には名が宿る。

 鍛冶の神ヘパイトスの加護と呼ばれる名はその武具に絶大な力を与えてくれる。

 こういった魔武具はネームドと呼ばれ、冒険者にとってネームド武具を持つのは夢の一つになっている。


「これが俺の、新しい……」


「そういや、俺の武器、ぶっ壊したみたいじゃねぇか」


 ぐっ、っと息が詰まったが、嘘は絶対に言えない。素直な気持ちを言葉にする。


「何度も命を救われ、最後まで俺の命を守ってくれました」


「ギルドのやつから聞いた。普通なら許さねぇが、見事な最後だったんだな」


 あぶね、忘れてた。いい話になってくれてよかった。

 武器や防具の手入れをしっかりしてないと、たとえどんな高位の冒険者でも怒鳴りつけるのがこの親方だ。これからも毎日ケアを怠らないようにしなければ……


「さて、説明しておくが、猪突、猛進どちらもある程度の損傷は時間があればゆっくりと修復されていく。魔力を込めればその速度はもっと早くなる。魔石を置いても良い」


「修復……」


「猪突にはもう一つ、威圧だな。ほれ、持って気合を入れろ」


 手渡された棍棒はずしりと重いが、持ち手に手をかけた瞬間あまりにもしっとりと手に馴染むので軽くなったかと思ってしまうほどだ。


「気合……ふんっ」


 何らかの力が周囲に広がるのを感じる。お弟子さんが少しつらそうにしていたので力を抜く。


「弱い敵ならこれで逃げるだろうし、強い敵も不愉快だろう。

 つまり、敵の敵意を自分に向けることが出来る。嫌がらせにもなるだろう」


「壁役に良いですね」


「猛進の方は打撃系の衝撃がかなり軽減される。斬撃に弱いわけでもねぇ。

 不思議なことに、体当りすると、すげぇ強力になる。ボアらしいな。

 そして、猪突と猛進を一緒に装備すると……疲れにくくなり、傷の回復なども早くなる」


「す、凄い効果ですね」


「そうか? 地味かと思ったが、気に入ったんなら良かった」


「いや、凄いですよ。着てもいいですか?」


「当たり前だろ、お前のものだぞ」


「そ、そうですよね」


 そして、全てを身にまとうと、親方の言っていた意味が理解できた。

 全身から力が溢れるようだ。

 それにこの装着感、まるで体の一部のようだ。

 この状態だと棍棒の重量感さえ感じ無いほどにこの装備からパワーを感じてしまう。


「そして、その武具は知っての通り、成長する。

 装備し、戦い、経験を積む、また魔石などを喰わせていけば……お前好みの装備になるだろう」


 ぶるりと身体が震えた。魔武具の最大の特徴、成長する武具。

 これから、この武具は俺とともに冒険を重ねて強くなっていく。


「まぁ、余程強力な武具に出会ったら、転生させることもあるがな」


 その経験は次の魔武具に引き継いでずっと俺の相棒として受け継がれていく。


「くぅーーーー」


 思わず武具を抱きしめてしまう。


「よく似合ってるぞ、それでは、契約するからそこに立て」


 床に魔法陣が描かれている。

 その上に立つと親方は正面に置かれた台座に魔石を乗せる。


「鍛冶の神ヘパイトスよ、信者の声を聞き、大いなるお力で強き絆を結び給え……」


 魔石が淡く光り輝き、台座に組み込まれた文様から魔法陣に光の筋が伸びていく。

 魔法陣が光だし俺を包みこんだ。

 温かな気配が俺を包み込むと、武器と防具との確かなつながりを感じた。


「これで契約の儀式は終わりだ、その武具は完全にお前のものになった。

 おめでとう」


「あ、ありがとうございます!! 一生大事にします!」


「ああ、そうしてくれ。

 ぶっ壊したら承知しねぇぞ!」


「はいっ!!」


 こうして猪突と猛進は俺専用の武具と成り、その力は俺が使用することで最大限発揮することが出来るようになった。


 俺は新たな、強力な相棒を手に入れた。




「笑うな、笑うな俺……」




 魔武具に身を包み歩いているだけで顔が緩みそうになる。


 嬉しい……嬉しすぎる……


 このところの俺に起きている現象が、怒涛のようで、頭が追いつかない、が、嬉しすぎる……


 人間、余裕が突然生まれてしまうと、欲が出る。


 ここで終わりだと思っていたら、急にもう少しすすめるよー、さらには強くもしてあげるよー。なんて展開、詐欺だと思うのが普通だ。




「でもな、本当に本当なんだよな……。


 ああ、やばい、嬉しい……」




 湧き上がるような感動が、止まらない……


 そして、こんな物を手に入れてしまったら、試したい、いや、我慢できない……


 俺の足は自然とダンジョンへと向かってしまったのは仕方のないことだ。


 自重するつもりだったさ、でも、仕方がないじゃないか。






「予定通りですね」




「へ?」




「ゲンツさん、お待ちしてました。さぁ、行きましょうか」




 ダンジョン前で、ケイト他、蒼き雷鳴が待っていた。

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