15杯目 蒼き雷鳴

 ケイトに完全に動きを読まれていた。

 ケイト達蒼き雷鳴のメンバーは今日のために準備を整えていたらしい。

 そのまま顔合わせとなる。

 こうしてみると、いや、確かに恐ろしいほど美男子グループだが、全員女性とは思えなかった。

 色々と調べてみたが、蒼き雷鳴は美しすぎる冒険者として男性として認識されていた。

 女性のファンが非常に多い、男性のコアなファンも多かったが、その実力は誰しもが認めるところだった。


「はじめまして、盾役のサルーンだ、よろしくお願いする」


 重装槍兵、大盾に槍という典型的な盾役の装備。鎧で大きく見えるが、確かに体つきはソコまで大きくは無い。


「中段弓役のベルン、よろしくぅ」


 どう見ても、シュッとしたイケメンだが、女性と聞けば、美しい凛とした女性にも見える。


「斥候のポーラ、よろしくッス」


 黒いマントに身を包み小柄な体系だが、顔つきは少し幼さの残る……男の子……だよなぁ……。


「魔法使い、ミツナギ」


 無口でフードを目深に被っているので口元しか見えない、が、それだけでもイケメン、この場合整った顔立ちであることは解ってしまう。


「癒やし手のコーラットです。ゲンツさんどうかよろしくお願いします」


 神に祈ることで回復や補助などの加護を施す、希少職の癒やし手。どのパーティでも引く手あまただろうに、しかも、若い。ものすごい素質の持ち主なんだろう。


「そして私がリーダーの剣士でケイト、これが蒼き雷鳴さ」


「いいバランスだな。俺が入る隙はなさそうだが……」


 ちらりと俺の武器を見る。


「ゲンツさんにはダメージディーラーになってもらうつもりだったんだが、その武器、良い効果があるらしいね、サルーンの負担を軽くしてもらえると助かる」


「耳が早いな」


「まぁ、ね」


 俺の行動を完璧に読んでいたし、やはり、今一番勢いのあるパーティのリーダーというだけのことはある。


「今日は顔合わせのようなものだ。15階層辺りから行こうと思うのだが?」


「構わない」


「ゲンツさんの戦いには興味がある。勉強させてもらう」


「ついこないだまでは君等より下だったし、中ではゲンツで良い。

 お互い、気兼ねなく気がついたことを言ってくれ」


「現場での冒険者は皆等しく同じ、流石はベテランの言葉の重みは違うね」


「やめろケイト恥ずかしくなる」


「ははは、さて、準備はいいかい? 

 それでは参ろうか、ダイブ、15、OK」


 軽い浮遊感と、いつものダンジョン。

 俺の中のスイッチも切り替わる。

 基本的に斥候役がいる場合は斥候が先頭、次に盾役、中段、後列、俺が殿だ。

 全体をよく見たいし、背後の警戒はソロの必須スキルだから自信もある。


 そして幾度かの接敵を通して蒼き雷鳴の実力に触れる。


「アイアンのパーティはこんな感じなんだな、いや、ここが凄いんだろうな」


「そう言ってもらえると嬉しいな、何か今のところあるかい?」


「見事、だな。パーティ全員が自分の仕事を完璧に理解して、それぞれを補うように動いている。


 更に俺という異物が入ってもそれが崩れないのは、普段から余裕を持って行動していることの現れだろうし……そりゃ破竹の勢いで台頭するわけだ……」


「一つ聞きたいのだが、その分析は、ゲンツの経験からなのか、シルバーの力なのか、どっちなんだい?」


「経験だな。一応俺も色んな臨時パーティや、穴埋めとして多くのパーティ経験があるからな、あと、俺の目にはそれなりの自信がある。このおかげで永らえてきた自負もある」


「……素晴らしい、我々は運が良い!

 まさに適材! 我々に足りないことがきっとわかるぞ!」


 それにしても驚いた。妹のヒロルも凄いと思ったが、ケイトも凄い。天才と言って良い。

 そして、パーティのメンバー全員がそれを認めている。

 カリスマにも似たリーダーシップ、このパーティは……間違いなく歴史に名を残す。


「さて、問題なく20階まで来たわけだ。

 一応今日の目標だったんだが、驚くほど早く着いたな」


「いや、背後の心配が全く無いのがこんなに楽とは思わなかったっス」


「私も戦闘の負担が軽くて助かります、いや、楽しすぎているような?」


「す、すまん、ちょっと楽しくて、というか、これ、結構厄介な武器だな。

 じゃじゃ馬で慣れるのに時間がかかりそうだ」


 慣れていないせいで戦闘中に意味もなく威圧というか挑発スキルが出てしまう。

 俺自身も武器の能力も格段に上がっているから敵を集めても倒すのには問題がないのだが、完璧なパーティプレイにいらぬ横槍を挟んでいるような形になってしまい申し訳がない。


「今日手に入れた武器だから当然当然、とりあえず、この階を探索して今日は帰ることにしよう。

 なあに、少し早いが、食事を囲って親睦を深めることにしようじゃないか」


「異議なし」


「ちょっとまってくれ、なにか……」


 20階に降りると、少しピリッとする空気を感じる。

 それは他のメンバーも同じだ。


「声……っ」


 ポーラが耳をすましてその正体に気がつく。

 

「たぶん、苦戦してるッス!」


「リーダー!?」


「急ごう!」


 ポーラを戦闘に現場に急ぐ、この階層に来れるならそれなりの実力者……

 たぶん、ケイトの表情から想像している人物像がある。

 そうだったら、俺は人を見る目がなかったということだ。

 敵と戦っているメンバーを目視する。


「大熊のっ!」


「ゲンツか!? 悪い、ドジッた助けてくれ!」


 大熊の咆哮、この街で長い事パーティをやっているベテランだ。

 カッパーとアイアンの混成だが経験豊富で非常に安定した実績を積んでいる。

 20階で崩れるようなパーティではないが……


「牛野郎に挟撃されてな」


 ミノタウロス、20階層の主がなぜか3匹もいる。

 背後の一体は倒せたが、その際に2人が倒れ、ヒーラーと魔法使いの治療が出来ない状態だ。


「ケイト、俺が前に出ていいか? 治療をお願いしたい」


「解った。サルーン、ベルンも援護を、私とポーラ、ミツナギ、コーラットで救助っ!」


 ケイトの言葉で皆が動く、俺は一気に大熊達が相手をしているミノタウロスに棍棒を叩きつける。


「さーて、ちょっくら本気を出して行こうかね!」


 相棒の真価を見せるっ! 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る