11杯目 衝撃
「わたしたちとともに、この街のダンジョン30階、最奥に挑んでくれないか?」
突然のケイトの提案に、俺はさほど驚かなかった。
酔って頭が回らないわけではない、むしろ心地よい酔いで思考はクリアになってるぐらいだ。
「……ふむ、なるほどな」
「驚かないのですね」
「いや、少し考えると、おかしくない提案だからな」
「そうですね。我々は今29階層まで到達しています。
しかし、30階層に挑むには、足りない、たぶん、最奥のダンジョンの守り人には勝てない」
若いのに、しっかりとしている。
勢いに任せてボスに挑んで散るパーティは多い。
「そうなのか」
「長い時間をかければ、いずれは倒せるという自負もありますが、我々は、次に進みたい」
「だから、俺か」
「シルバー、しかも、経験豊富なベテランであるゲンツ殿が加われば、間違いなく我々で守り人を倒せます」
「俺の実力も知らないのに断言できるのか?」
「以前の実力は聞き知っています。
その状態でさらに階位が2つも上がれば、想像の上であっても下ではないと考えています。
もちろん、準備としてしばらく一緒にダンジョンに潜ってもらいます」
「ソレは当然だな、それならむしろ俺にとってもメリットがでかい。
今の不安定な状態を安定できるまでパーティに援護してもらえるってことだからな」
「そうです、悪い話ではないと思います」
「いや、これは悩むような話ではないな。
ケイト、その提案喜んで受けるよ」
「おお、ありがたい」
「ただし、俺の実力を知って、守り人討伐が難しいと判断したら、きちんと時間をかけて攻略を目指すことを約束してくれ、俺は、このチャンスを失いたくない、無茶はしたくないんだ」
「神に誓って無茶はしない、我々もまだまだ冒険者として活躍するつもりだからね」
「わかった。よろしく頼む」
俺はケイトと握手をして、もう一度乾杯する。
「終わった? 話終わった?」
「ああ、ヒロル。もう良いぞ」
「ゲンツ様! 私達とパーティを組んでください!」
「いや、それは無理だ」
俺は即答する。沈黙が室内を支配する。
「え?」
「悪いがそれは無理だ」
泣きそうな顔をしているヒロルやキャディ、メルには悪いが、それは出来ない。
「その誘いは一時的な話ではなく、恒久的なパーティメンバーへの勧誘だろ?
悪いが俺の基本はソロだ。それに……」
「君たちの実力ではゲンツさんの邪魔になる」
俺の言いにくいことをケイトが代弁してくれた。
仲間になったからか、殿からさんへと砕けてくれたのも、少しうれしい。
「私達だってすぐに!」
「すぐに階位を上げる、それは、ゲンツさんにお守りをさせるってことだ。
冒険者としての話であれば妹といえどきちんと言わせてもらう。
冒険者を舐めるんじゃない、ただでさえ甘い考えで崩壊し、今も階位が3つも違う人間にその甘えた考えのまま無謀な提案をする。
今回の件で少しは冷静になってくれたと思っていたが、まだその甘い考えは変わらないのだね……」
「お、おい、そこまで言わなくても」
「いや、いい機会だから言わせてもらおう。
君たち3人は確かに才気あふれる優秀な冒険者だ。
私達よりも若くして階位も上がった。
今が一番楽しい時期だろう。
だからこそミスをした。
しかも、ゲンツさんが居なければ、致命的なミスだ。
命を救ってくれた英雄を前に浮足立つ気持ちは理解するが、冷静になれヒロル。
こんなことを大恩あるゲンツさんに言わせるつもりか?」
「……っ!」
キッとケイトを睨むヒロルだったが、ケイトの言は間違いがない。
それをヒロルも他の二人も解っているんだろう、何も言い出さずにうつむいている。
「それくらいで良いだろう、何も未来永劫パーティを組まないと言っているわけじゃない。 お互いに冒険者をしていれば出会うこともあるだろうし、臨時のパーティを組むこともある」
ぱぁっと皆の顔が明るくなる。
「はぁ……あまり甘やかしてくださいませんようにお願いします。
今回の件だって本当に話を聞いた時に倒れそうになったのですから……」
「ふむ、そうだな。
ヒロル、それにキャディ、メル。君たちはまだ若い、才能があると自分たちが何でも出来ると思ってしまう。それは素晴らしいことでもあるが、危険な罠でもある。
自分を知って、正しく律する。そういう冒険者でなければ、すぐに死ぬ。
それは君たちは身を持って知っただろう?
何も俺は世界を変えるような大冒険をするつもりはないんだ、世界を巡り、不相応に冒険者という生き方を楽しみたいと思っている。
君たちが順調に成長すれば、きっと俺なんかすぐに追いついて、そして追い越していく。
その時に改めて誘ってくれれば良い。
さらなる高みに至る君たちを誇らしい気分で眺める日もそう遠くない。
だから、自分たちの身を大切に、そして冒険者という生き方を楽しんでくれ」
「でも、蒼き雷鳴とはパーティを組むんですよね……?」
「ああ、俺もこの街を出るならあのダンジョンを制覇したいと思っていたから、ありがたい話だ」
「……だ……」
「ん?」
「やだーーーーーー、またケイトおねーちゃんにゲンツさんを取られちゃうよーーーーー!!」
「な、何の話だ……ん? 今、なんて?」
「ケイトおねーちゃんは冒険者になったときみたいに先に色々なこと私から取っていくんだもんー! 父さんに冒険者になりたいって先に言ってのは私なのにー!」
「おいおい、もしかして、ヒロルに酒を飲ませたかい?」
「さっき、それ、一気にあおってた」
「とめる暇もありませんでしたわ」
「はぁ……すまないゲンツさん、ヒロルは酒に弱くてね」
「いや、まぁ未成年だからってそうじゃない!
今、聞き捨てならない話が……?」
「なんだろうか? ヒロルが妹であることはもう話したと思うが」
「あ、兄じゃなく姉!?」
「ああ、そこかぁ、見ればわかると思うんだが?」
いやいやいや、わからんって、とんでもなく美しい男子だと完全に思っていたよ!
「ねーちゃんキレイだからゲンツさんすぐに襲いかかって獣になって、うわーーーーん!!」
キャディとメルは暴れるヒロルをなれた感じで抑えている……
「それにしてもゲンツさん、私のことを完全に男と思っていたのかい?
すこーしだけ、傷ついたなぁ……」
「だって、男の格好を」
「これは、趣味だ。信じないならさらしを取ろうか?」
「あーーーーー誘惑してるー!!!」
「というか、蒼き雷鳴が全員女だという話は有名じゃないんだな?」
「はぁ!!?」
衝撃の事実に、俺は、せっかくの酔がすっかり覚めてしまうのだった。
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