4-4
「こんなことしてる場合じゃない」
「えっ、待って!」
ユリシーズは走り出す。すると、騎士もついてくる。
「ついてこないでくれ!」
「いやいや。あなたのような人が一人でこんな日も落ちた頃合いに外を歩かれるのはいささかまずいかと」
ユリシーズが一生懸命走っているのを、相手は軽々とついてくる。
一人で身をひそめながら動きたいのに、これでは目立ってしまうと内心で焦る。
「あちらにいい入り口がありますよ」
城を目指す前に騎士を撒こうと走っていると、ケープの内側からあの悪魔の声が聞こえてくる。どこに潜んでやがる、と不気味に感じる。
村人たちが作った柵に沿って走る。こっちこっちと悪魔の声が聞こえる。小さな光が宙を浮いて方向を示してくる。
「ユリシーズ様⁉」
亀裂の周囲を警戒している騎士達が気づいて声を上げる。
「ユリシーズ様が、こちらに来られたぞ! 捕ま、じゃない! 御身を保護して屋敷にお連れしよう!」
めっちゃ気を遣ってくれているが、そこは普通に捕まえるでいいんじゃないか。とユリシーズは思う。
剣も構えず、素手で向かってくる騎士達をかわしながら前に進む。が、進行方向が分かったのか、行く手に何人もの騎士達が折り重なるようにして立ち塞がる。
さすがに、無理! とユリシーズの足が止まる。
じり、じり、と騎士達が距離を詰めてくる。後ずさるユリシーズの前に、影が立ち塞がった。
「ここは私に任せたまえ!」
ユリシーズについてきた異国の騎士だ。すでに肩に剣を担いだ状態だ。宣言するや否や、横に一閃、剣を薙ぎ払う。
「なっ!」
ユリシーズが止める間もなく。止めようという意志を持つよりも早く。異国の騎士はメディナの騎士達を倒してしまった。
先ほどまで両の足で立っていた男達が、地に倒れ伏している。ユリシーズは目の前に広がる光景に、カッと頭に血が上る。
「うちの領民に何してんだ!」
口から出たのは恫喝。ユリシーズを助けたつもりの男は、面食らう。そんな男を放っておいて、ユリシーズはまず倒れた彼らの様子を確かめた。
「息がある……」
「さすがに殺さないよ?」
ほっと安堵の声を漏らせば、男が当然とばかりに応える。
「……信用できるか。プラウドの火種王子が」
「あ~~。知ってた?」
「知らないでか。ここは元々プラウドの一領地だぞ」
ユリシーズはプラウドの王子をにらみつける。
「ああ~~~。その表情、素晴らしい。その高貴な輝きの紫がかった青い瞳、まさに宝石」
王子のうっとりとした呟きに、ユリシーズはうげっと表情を崩す。
「……そういう表情をしても、醜くならないんだなー」
ほう、と感嘆した呟きが聞こえてくる。ユリシーズはうんざりして反抗的な言葉を投げようとした。
「おい! どうした⁉」
「やばい! 応援が来た!」
遠くからメディナの騎士達が駆け寄ってくる足音と声が聞こえてきた。プラウドの王子は、それに焦りユリシーズをさっと脇に抱える。
「降ろせ!」
「捕まるから!」
ユリシーズはプラウドの王子に抱えられたまま、ダンジョン内部へと突入した。
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