4-3
バタバタと騒がしい足音が聞こえる。ユリシーズは目を開けた。
「ユリシーズ様!」
勢いよく扉を開けたのはニールだ。
「娘が! 娘をダンジョンにやりましたか!」
切羽詰まった声に焦った表情、その必死な様子にユリシーズはおやと思う。
ドロシーは周囲を説得して向かったのではなかったのか。
こういうところだよなあ。と思う。足並みなんかてんでバラバラ。こんなにもぐずぐずの状態で国としてやっていけると思っているのだから、おかしな話だ。
「さっき見かけたから見送った」
「止めてくれなかったのですか⁉」
「てっきり、お前も了解しているのかと思った」
「なぜ、そんな平然としていらっしゃる⁉ あなたの妻になる予定の娘ですよ!」
「俺が何を言ったら、彼女は止まるんだ? 教えてくれよ。俺はにこにこと笑ってるだけでいいって言っただろ」
ユリシーズの言葉にニールは口惜しそうに歯噛みする。
「……こちらでごゆっくりお過ごし下さい。まだお体も万全ではないでしょう。部屋からお出になられませんよう」
ニールの口調が暗い。丁寧な物言いながら、整えているのは上っ面だけだと感じた。娘のことで頭がいっぱいだと丸わかりだ。ユリシーズのことなど構っていられないので、さっさとこの場を去ることにしたのだ。
そういうとこだぞ、とユリシーズは思う。こんなにもわかりやすくていいのか、と思うのだ。一国の高官ならば、そう言う態度を表に出さないものではないか、と思うのだ。
「あの方と喧嘩をした意味はあるんですか?」
「……いや、ないな」
「協力して、言いくるめてダンジョンに向かってくださいよ」
「まあ、人間てのは非合理なことをしてしまうもんだよ」
ユリシーズは答えながら、いい加減この悪魔に勧誘され続けて否定し続けるのも、非合理的だと思えた。
「……準備するか」
持っていく装備を寝台に隠しつつ、揃えていく。
「ユリシーズ様、お加減は如何ですか」
「普通」
何度も部屋を抜け出したせいか、しょっちゅう様子を見に来られる。これは一発勝負を仕掛けるしかないとユリシーズは思う。
ユリシーズのいる部屋から大きな物音が聞こえた。
「何事か!」
騎士たちは慌てて室内に入る。
「あっ!」
窓が開いている。窓の傍らには倒れた椅子が転がっている。
「窓から出られたのか?」
「だが、窓の外にも見回りを置いているはずだ!」
騎士たちは入り口から、窓へと向かって行った。その扉の影、ユリシーズはそこに潜んでいた。
騎士達が窓へと駆け寄る隙に、ユリシーズは室外へと出る。
廊下を走る。見つかる前に、屋敷の外に出なければならない。
「ここから出るか」
廊下の窓に手をかける。屋敷の外を見回っていた騎士達が、慌ててユリシーズのいた部屋の方へと走っていくのが見えた。
今だ。とユリシーズは窓枠から身を乗り出す。
窓枠を蹴って、身を完全に宙に放ったところで、下に誰かが走ってきて腕を広げるのが見えた。
ユリシーズは咄嗟に縄を近くの木に巻き付け、勢い良く枝に飛び移った。そこから地面に飛び降りる。
「……意外とすごいな、君」
「あんたは……」
数日前に、初対面のユリシーズに求婚してきた異国の騎士だ。
「受け止めようと思ったんだが」
「その腕につけてる防具、金属だよな。それで受け止められたら痛いと思うんだ」
「ああ!」
ユリシーズの指摘に、騎士はなるほどと手を打つ。その表情に、不機嫌さはなく、指摘を素直に受け入れたのがわかる。
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