4-2
「ドロシー様、改めて伺いますが、ご自身が攻略に向かわれるんですね」
「ええ、もちろん」
ダンジョンに興味と知識を持つ騎士、ケントがドロシーに問う。即答すれば、考え込むような仕草を見せる。
「何か問題ある?」
「普通に考えれば大ありです。むしろ、なぜ誰も問題にしないのかという疑問があります」
「私なんて、ただの一領民で一臣下だから」
「ですけど、王子の婚約者ですよねえ? 普通はもっと敬われて、大事に扱われるもんだと思うんですよ」
「私に、屋敷の奥で守られるばかりの深窓の令嬢をやれと?」
「あなたの意志の問題じゃないんですよねえ~~~」
ケントは呆れをそのまま声に乗せた。それを聞いても、ドロシーは何が? と首をひねるばかりだ。
「まあ、それだけ、このお国がまだ小規模で素朴なお国柄なんだと思うことにします。なんとしても、御身をお守りしましょう」
「堅いねー。お前は」
もう一人の騎士モーリスが豪快に笑いながら、ケントの背を叩く。彼らは元傭兵だ。外国から流れてきた彼らの価値観は、この国の人間とは違っている。ケントとモーリスもそれぞれ違う国の人間で、彼ら同士の価値観もずれている。
「とにかく! 決行は明日!」
「まあ、下見ということで」
「あわよくば攻略!」
「無理ですって!」
ダンジョンへ向かう三人の熱量はてんでバラバラである。
いざダンジョンへ突入、という段階でユリシーズがドロシーへと声をかけてきた。
なんだったんだろう、と思いながら城に来た。ダンジョンの入り口は強引に城の地下に作られた。行き止まりだったはずの場所に扉ができている。
「開けますよ」
「ええ」
ドロシーは、思考を切り替えた。ユリシーズのことを考えるのは、そこで止めた。
ユリシーズは部屋へと戻る。
「おい! 勝手に出歩くなよ!」
部屋に戻る際、イリアスに声がかけられる。一旦部屋を出たのを見逃されたのは、ドロシーを見送るためだろうか。この辺のさじ加減がなあなあな辺り、みんなユリシーズに甘い。
だが、これから部屋を出るのはさすがに厳しくなるだろう。さて、どうすると思案する。
子供達がくれた花冠と首飾りが目に入る。借り物の部屋に、彩りが足されて心が和む。
花飾りの形を崩さないように、花を種類ごとに一輪ずつとって押し花にした。後は朽ちるばかりの花をそのままにするのは惜しい、と形にして残した。肌守りに持つか、と考える。完成するのは数日後か。
完成までの間、何をして過ごそうか……
「暇だな……」
「ずっとそうしておられるおつもりで?」
「怒ったか?」
苛々とした口調で悪魔に話しかけられて、ユリシーズはゆったりと笑う。ようやく一泡吹かせてやった気持ちになる。
「彼女が今どうなっているのか、お見せしましょうか?」
「そんなことはしなくていい。お前はとにかく俺をダンジョンに行かせたい。それだけだろう」
ユリシーズは寝台にどっかりと座って、悪魔と向き直る。
「俺だって考えてるんだ。今は大人しくしてろ」
ユリシーズはそう言うと、目を瞑り己の心と向き合う。
国ができ、身分が上がり、そこへダンジョンができた。
いずれ王に届く地位を得た。ダンジョンができ、そのダンジョン産の宝を手に入れられる機会を得た。
どれも、特に欲しいと思っていたものではない。別になくても困らなかったものだ。そんなものばかりが提示されている。
今、本当に欲しいものは何なのか。
ぱっと浮かぶのは、子供達に渡された花飾りで。何か目新しいものよりも、どちらかと言えば失いたくないという気持ちの方が強かった。
失いたくないのだ。狩りをして農業をして、そんな日々の素朴な生活が守られていて欲しい。この地に住む人々は大らかに笑っていて欲しい。
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