第23話

「折角だし、美味しいもの食べたいからな~。よし、神社行くか!」


 私の案を組んでくれて、二人で神社まで足を運び、お参りをする。どうやらここは開運や厄除けといった効果があるようだ。

 ふとロイさんの事を思い出して、切なくなった。

 ロイさんの事を忘れ、新たな道を行っている私にはピッタリじゃないかと自分を奮い立たせて、しっかりと祈る。そんな私を少し心配そうな目で慎司が見ている事に気が付き、笑顔を返す。


「よし! 食うぞー!」

「待ってましたー!」


 気分を一転させて、食べ物に気を反らす。そんな私に慎司も乗っかってくれたように感じたが、そもそも慎司のお目当ては最初から食べ物だ。

 お互い笑い合いながら、出店が並んでいる所を歩いて、目当てのものを買い、シェアしながら食べ歩く。

 慎司と居る時間は楽しく、気が付けば日も落ちてきたので、観光地を後にして帰路へつく。しっかり、自分用のお土産を買う事も忘れてはいない。


「食い意地、張ってるなー」

「慎司こそ」

「これは職場へのお土産」


 大量に買われたお土産を掲げて言われれば、返す言葉もない。確かに男所帯な職場であれば、それなりに量は欲しいのだろう。


「何か負けた気がする」

「これって勝ち負けあるのか!?」


 そんなふざけた会話をしながら三時間かけて、私達は主要駅についた。


「ここからは大丈夫だから。慎司も明日は仕事でしょ? 遅くなるし」

「いや、送る。危ない」


 どうしても引かない慎司に、最寄り駅まで送ってもらう事になった。申し訳なさもあるけれど、少し嬉しくもある。


「あーあ、もうついちゃった」


 ポツリと零れた私の言葉に、慎司の動きが一瞬止まり、その後に長い溜息が聞こえた。


「あのな。そんな事言うと、勘違いする奴が出て来るぞ?」


 俺のように、と小さな声で呟いた慎司に、ハッとして顔を上げる。嬉しそうに、しかしどことなく悲しそうな瞳をする慎司に、胸が痛む。


「あ……のね」

「ん?」


 緊張して、喉に何かが詰まっているかのように、声が出しにくい。けれど、そんな私をじっと待ってくれる慎司の優しさに、私も勇気を持って口を開く。


「ちゃんと、慎司との事を真剣に考えて向き合ってるから。じゃあ! 今日はありがとう!」


 一気に言い終えると、慎司の返事を待つことなく、私は家に向かって駆けだす。慎司の顔をまともに見る事も出来ないどころか、もう恥ずかしくて顔を合わせていられなかったのだ。

 家に帰って落ち着いてからスマホを開けば、慎司からのメッセージが届いていた。


『楽しかった。ありがとう。次はどこ行く?』


 早くも次のデートに誘うのかと思って、笑みが込み上げてきた。気恥ずかしさと、嬉しさの反面、ロイさんへの恋心を思い出しては胸も痛む。


「早く忘れられれば良いのに……」


 辛く悲しい思いなんて、全てなくなってしまえば良いのにと願いながら、私は次のお出かけを考えて心を楽しませた。











 ロイさんをブロックしてから三ヵ月が経とうとしている。

 胸の痛みはまだ残ったままだけれど、どこか色あせていっているようで。でも、まだロイさんの動画を見てしまいたい欲求を、必死に我慢している状態だ。


「かんぱーい!」

「おつかれー!」


 金曜の仕事終わり。あれから慎司と気軽に会うようにはなり、今日は焼き鳥を食べに居酒屋へとやってきた。

 ごくごくとビールを一気飲みする慎司に驚きつつ、私はチビチビと舐めるように飲む。こうやって夜に会うのは初めてだ。


「すいませーん!」


 飲み干すと同時に手を上げて店員を呼ぶ慎司。


「おかわりで」

「あ、豆腐サラダと焼き鳥盛り合わせ。あとレバーに砂肝、ししとうと銀杏を。慎司もいる?」

「いや、焼き鳥盛り合わせとポテトで」


 ぶんぶんと首を振る慎司に、レバーは苦手なのかなと思った。意外と苦手な人が多い部位だ。私みたいに好きな人は好きなのだが。あ、ししとうや銀杏もそうか。

 焼き鳥をリクエストしたのは私で、慎司はももと揚げ物でビールを流し込んでいる。もはや食べるというより飲む事がメインとなっていると言っても過言ではないだろう。


「お酒好きなの?」

「折角の週末! 詩帆と一緒だし、飲まないと損だろ!」


 それもそうかと、私もビールを飲みほした後は梅酒をロックで頼む。普段のストレスはネットゲームで解消していると言っても、お酒は別だ。

 リアルでの知り合いのように、仕事の愚痴も垂れ流す。あえてネットでの事は一切触れない。

 食べて、愚痴って、お酒を飲んでいれば気分もどんどん高揚していく。


「ほら詩帆、飲みすぎ」


 そう言って慎司が差し出してきた水を手にとり、一気に喉へ流し込んだ。

 慎司のペースが早いためか、私もついペースを上げて飲んでいたようだ。とても気分が良い。


「そろそろ出るぞー」


 二時間程経っていただろうか。慎司がそう言って帰り支度を始めたので、私も後について店を出た。

 けれど、正直まだ飲みたい。酔っているのだろうけど、物凄く気分が良いのだ。


「詩帆ー? 送るわ」

「え、やだ。帰りたくない」


 ふらついた私の肩を掴んで支えてくれた慎司に、率直な意見を返しながら顔を見上げる。そこには、真剣な表情をした慎司が居た。


「……俺に、そういう事言うの?」


 だって、まだ飲みたいもん。という言葉を飲み込んだ。

 真剣に向き合うと決めた相手だ。そして、私は慎司に告白もされている。

 安易なセリフを吐いたという自責の念もあったけれど、慎司と一緒に居るのは楽しいという気持ちが天秤にかかる。

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