第22話
ネット内とはいえ、長く友達をしていたが故に、お互いをよく知っているとも言えるから分かる事だ。
『このゲーム、しぃ楽しめてるか? 他のゲーム探すか?』
タイミング良く、シンからもスマホにメッセージが入った。私がゲームにログインだけして、何もしていない事が分かったのだろう。
『タンク方面で思案中! グラフィック綺麗だから頑張りたい!』
『そっか。攻略サイト少し探ってみるわ』
『ありがとう~!』
それだけで、もっと頑張ろうと楽しみを得てしまう私は単純なのだろう。僅かに灯る楽しいという感情が、今の私にはとても必要なものだ。
「真剣に向き合う……か」
少し思案した後、私は思い切って文章を打って送った。
『どこかへ出かけない?』
シンプルな誘い。言い訳じみた事や理由づけを全て省いたら、こうなった。しかし、シンから即座に返事が来なくて、私は迷惑だった? 都合良く扱うなと怒っている? なんて嫌な思考がグルグル巡った。
ゲームの相談をしたくて、なんて送れば良かったのかなんて後悔しつつ、文章を打っていれば返事が来た。
『喜んで! どこか行きたいとこでもある? したい事とか。なければ何か探してみようか?』
その後に続いて、今やっている映画やテーマパークのスクショが送られてきた。シンなりに色々考えてくれていたのだろう。
軽蔑されていない事に安堵して、会う日や時間などを決めて行った。
忘れられたら……忘れられれば良い。ロイさんの事を。そして、今ある楽しさや幸せな気持ちを大事に出来たら良い。
弱くてネガティブな自分に、さよならをしたい。そんな気持ちを表すかのように、私はゲームをログアウトすると同時にパソコンの電源を落とした。
◇
「詩帆~! こっち」
「ちゃんと駅まで行けるのに」
「迷いそうで心配だから」
週末、今日は少し遠出した観光地で、食べ歩きでもしようかとなったのだけれど、またしても慎司は私の最寄り駅まで迎えに来た。
「心配性すぎ」
苦笑しつつ電車へ向かう。慎司は私が人の波にのまれないよう、前を歩いてくれ、電車に乗る時も端へと誘導して押しつぶされないようにしてくれる。
「慎司、紳士だね~」
「何それ。言葉遊び?」
「いや、違う!」
一文字違いである事に、言った後で気が付いた。名前まで口に出さなくて良かったのではないかと慌て焦るも、そっぽを向いた慎司の耳が少し赤く染まっているのを見つけて、私も気恥ずかしさに俯いてしまう。
照れ隠しでふざけたのか。
そう思ってしまえば、私まで顔が染まりそうだ。
「よーし! 肉食うぞー!」
「え!? 魚でしょ?」
照れ隠しなのか、それとも肉体労働だからか。慎司の言葉に吹き出しながら答えれば、慎司は少ししょぼんとする。
「せめてハンバーガーだけでも」
「スイーツの食べ歩きも忘れてはいけない!」
魚介類が一押しな観光地でもあるが、ブランド牛が有名でもあるから、慎司はそれをどうしても食べたいようだ。私的にはスイーツの食べ歩きが出来るのであれば、昼食は何でも良いのだけれど、体格のいい大人がしょぼんとしている様子に笑いが込み上げてくる。
「なら、昼は魚で、スイーツは食べ歩きにするか」
私の意見を尊重する慎司に嬉しさを覚える。
「昼は肉で、食べ歩きはスイーツと魚介で良いんじゃない? 私は甘いものを食べたい!」
言う私に、それで良いのか?と伺う慎司に、力強く頷く。
私が遠慮していない事が分かると、慎司は、ならそれで! と嬉しそうに答えた。
電車を降りて、バスに乗りこむ。片道三時間程の長旅は、慎司と楽しく会話をしていたら、あっという間だ。
「ここ行こう!」
降り立つや否や、慎司はスマホの画面を私に見せて来た。
そこにはブランド牛の店が乗っており、口コミ評価がとても良い。あらかじめ調べていたのがよく分かる。
「花より団子」
「腹が減っては、戦は出来ぬ」
嫌味っぽく言えば、慎司に笑って返される。確かにもうお昼になりそうな時間だ。行列を少しでも避けたければ、今行っておくのが良いだろう。
頷いて歩き始めるが、やはり観光地と言う事で賑わっている街並みに、私は視線を彷徨わせてしまう。
「危ないぞ」
前を見て歩かない私に注意しつつも、慎司は私の隣、車道側を歩いて少しでも危険のないようにしてくれる。
「優しいね」
「障害物の危険は自分で対処しろよ?」
暗に前を見て歩けと言わんばかりに、電信柱を指さして呆れたように言う慎司に、膨れっ面を返す。
「子どもじゃないんだから!」
「今もまさに子どものようだ」
「もー!」
笑い合える、楽しい時間。
慎司と一緒に昼食を食べた後は、食べ歩きの為にお腹を空かせようと散歩する。さすがは観光地だ。綺麗な川が流れており、癒される木々との景観は圧巻で、リフレッシュされるようだ。
「ん~森林浴!」
「あ、こことか良いんじゃね?」
「ちょっと。向こうの神社まで足を運んでみようとか思わないの?」
またしても食べ物をネットで検索している慎司に呆れながら声をかける。先ほど食べたばかりで、私の胃には隙間がない。いくらデザートが別腹だと言っても、もうちょっと歩いてカロリーを消費させたいのが乙女心だ。
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