第21話

 シン:全員火力て、どんなんだよ!(笑)

 りっぷ:女の子キャラが良い~!

 あすやん:野郎のケツ見てゲームしたくない(きりっ)

 しぃ:使いやすいから……(笑)


 皆の返答を聞いて、いつも火力だったシンがサポーターである男のキャラに変える。

 ロイさんと一緒にプレイしていたゲームには、もうログインしていない。そうしたら、皆が一緒に新しく出たゲームへとうつってくれた。

 ここは前にロイさんが言っていた、同じ運営が出した別ゲーム。あすやんが皆で違うゲームをやろうと言い出した時に、これを提示された時は驚いた。

 ただ、こちらへうつったのは良いけれど、キャラメイクを出来ない事への弊害が、まさかこんな所で出るとは。衣装や武器を作るという機能もなく、決められているキャラを獲得し、動かすだけなのだ。

 まぁその分、攻撃方法やスキルが綿密だし、グラフィックや動画等が相当組み込まれてはいる。


「あー、ダメダメ」


 思考を散らすように頭を振る。そんな事で散らせる事は出来ないと分かっているけれど、目の前のゲームには少し集中が出来ている気もする。気持ち程度だけれど。


 りっぷ:あー!

 シン:キャラコン下手すぎワロタ。


 ボス戦なのに、りっぷが早々と退場する事となった。今までずっとサポートキャラを使っていたから、攻撃は難しいのだろう。

 私は即座にりっぷへ回復を行おうと動く。


 あすやん:しぃ!

 しぃ:あ。


 動くや否や、そこは直ぐに攻撃範囲へと入ってしまい、私も即死してしまった。うん、難しい。

 前ゲームのタンクであれば、攻撃タイミングと同時にガードをすれば良かったけれど、火力ならば攻撃に合わせて避けなければいけないのだ。


 シン:待ってろ。


 シンは敵の攻撃をかわしつつ、私の回復を最優先でしてくれた。


 りっぷ:私はー!?

 シン:お前は即死するだろ。

 あすやん:愛だ愛。入り込むだけ無謀ってもんだよ、りっぷ。

 りっぷ:おー! なるほど! 贔屓反対!

 あすやん:贔屓しなくてもしぃだな。戦力外即死りっぷ。

 りっぷ:うぁあああん!


 コントのような二人の会話に笑みが零れる。

 ロイさんをブロックしてから、皆は私に暇な時間が出来ないように尽力してくれている。そこまでしてもらえる程の人間じゃないなんて不貞腐れる気持ちはありつつも、皆の心が嬉しくて甘えてしまっている。

 早く前を向かなくてはと、ロイさんの連絡先を消して、ちゃんねる登録も消した。見たくなる気持ちを何とか抑え、動画や配信には一切顔を出していないから、今どうしているのかも、どうなっているのかも知らない。


 りっぷ:しぃさーん? 当たるよー?


 そんなチャットが見えた時には、時すでに遅し。見事にクリティカルヒットをくらった私は、またも即死してしまうけれど、それは私だけでなかったようだ。


 あすやん:回復忘れてた……。

 シン:おまえらなぁー!


 クリティカルを免れたけれど、HPがギリギリだったあすやんも離脱してしまい、シン一人で全員の回復を試みるが、その間にシンも離脱となり、結局ボスを倒せずに終わった。そこから、各々がスキルやキャラ獲得、もしくはクエストへと散っていく。

 タンクキャラに近い人は居るものの、タンクではないし、私はまだそのキャラを獲得していない。新しいゲームに慣れるまでは時間がかかるなと思案していれば、スマホの通知が光った。


『ボーッとしてたね~! まだあの人?』


 りっぷから女子グループトークへ入ったのは、シンへの気配りだろうか。そこへあすやんも乗っかってきた。


『クズ男の事なんて忘れてしまえ!』


 あれから、誰もロイさんの名前を出さない。


『もう配信とか見に行ってはないよ!』

『しぃさん、無理してない?』


 心配するかのようなりっぷの言葉に心が痛む。けれど、それくらいしなければ私はずっと張り付いて見てしまうだろう。だからこそ、自分の中で戒めにしないといけないのだ。


『忘れるには新しい恋愛するのが手っ取り早いだろ。ちょうど良い人物も居る事だし』

『確かに! 優良物件ではある!』


 シンから告白を受けたなんて言いにくかったけれど、二人には素直に言えば驚く事もなく「やはり」と言われ、そこから凄くシンとの事を応援されている。

 二人の目から見れば、シンは明らかに私へ好意を持っていたとしか思えなかったと言われた時は驚いたけれど。


『シン坊の事、嫌か?』

『嫌ではないけれど……』

『しぃさんが、あの人を好きでも覚悟の上だし、忘れられるよう努力してくれそうだけどなー』

『シン坊も、ずっと恋愛相談に乗ってたわけだしな』


 申し訳なさが込み上げてくる。片思いの相手に別の異性絡みを話されるのは、どれだけ辛いのかは私自身よく知っている。


『シンに頼るのは、都合よく扱っているように思えて気が引ける』

『それ位、シン坊は覚悟の上だろ!』

『むしろシンさん的には頼られたい場面だと思うよ? あわよくばを狙えるし』

『弱った心に付けこむ王道パターン!』

『二人とも、台無し』


 思わず溜息を付きながら返す。


『でも、私はそれで今の彼氏と付き合って、今も一緒だよ?』


 確かに、りっぷもゲーム内での恋愛含めて色々あったけれど、ずっと支えてくれたのが今の彼氏だ。同棲もしているし、喧嘩したなんて滅多に聞かない。というか、今の彼氏になってからは、愚痴すら聞いていない。

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