第14話
何て事を送ったのだろう、我慢すれば良かったのにと思う気持ちはあれど、後悔していない自分も居る。
しぃ:後悔はしてない、けれどやるせない。全部どうでも良い。
あすやん:不安定だな~。
シン:イキロ。
りっぷ:生きて。
率直な気持ちを言えば心配されるのは分かっていたけれど、やはり言わずにいられない。気持ちを吐き出すように文字へ打ち込み、自分の中にある感情を整理していくように。
しぃ:どうせ嫌われてるなら、会ってみれば良かったかなぁ。
あすやん:会え。そこまで行ったなら一度会ってみろ! ご尊顔を拝んで来い!
りっぷ:草w 進む事や戻る事も出来ない状態なら、打破するのには会う位でも良いんじゃない?
シン:遊ばれるなよ……ホテル連れ込まれそうで心配だわ。
しぃ:しない!
シン:断れなさそうだから良いけど、病気貰ってくるなよ?
あすやん:持ってそう……。
りっぷ:遊んでそう……。
しぃ:肝に銘じます……。
皆のロイさんへ対するイメージが悪くて笑いそうになるものの、それくらい気を付けないといけないという注意喚起だろう。
りっぷ:メイクよーし! ダイエットよーし? 服持ってるー?
しぃ:言わないで!
あすやん:嫌われたなら、何も気にする必要ない。
シン:おかん、辛辣(笑)
しぃ:うぅうう……。
こうやってふざけてくれる事がありがたい。
心が少しだけ回復し、心が悲しみに支配されていく中でも、少しだけ笑みが零れそうになる。
『週末、そちらに行く用事があるので、アニマルカフェにでも行きませんか』
『何時?』
覚悟を決めて送ったメッセージに対し、ロイさんは普通に返してきた。
会う時間や場所も、すんなり決まった。
私は緊張しながらも、どこか吹っ切れた、諦めに似た感情を持つ。
『夜には帰ります』
『わかったー』
そんなやり取りもしていたのに、しっかりとムダ毛の処理をして勝負下着を着用してしまう自分に苛立ってしまうけれど、なんなら全て綺麗に整えたい。
指先にもネイルをほどこして、髪の先までトリートメントをして。セミロングの髪はふわっとさせて、そのままおろしておく。
綺麗な自分を見せるのだと、私は背筋を伸ばして待ち合わせの場所についた。
『つきました』
同時に鳴る、スマホの着信音に胸が跳ね上がる。
初めての通話だ。
震える手で通話のボタンを押し、息を飲みながら電話に出る。
『もしもし?』
「あ、見つけた」
スマホ越しと共に、直ぐ側から聞こえた声は、私がいつも聞いていた声。
「はじめまして……?」
思わず首を傾げて、問いかけるように言ってしまった。こういう時、どう言うのが正解なのだろう。
そんな私の様子に、ロイさんは笑顔で返してくれた。
「会えて良かった! 顔、見た事なかったし」
「送りあった事ないですもんね」
むしろ見せられるわけがない。自分に自信なんて、あるわけでもなし。顔を見てから連絡がなくなったとかになったら、最悪すぎる。
ロイさんの素顔には興味があったけれど、今こう見ていても、自分のフィルターがとてもかかっている事くらい、頭の片隅で理解している私がいる。
塩顔と言って良い位、あっさりとしている。けれど、小さいタレ目なのも相まってか、とても優しそうな顔立ち。世間一般的に絶対的なイケメンと言えるわけでもないのだけれど、私は鼓動が早くなるのを止められない。
好きだ。かっこいい。
諦める為に来たのに、それでも溢れ出てしまう気持ち。
「アニマルカフェだよね?」
「うんっ」
せめて、嫌な所でも見つけれたら諦められるのにと、淡い期待を抱く。反面、嫌われたくないと自分の仕草に、指先まで気を配る。
なんて矛盾しているのだろう。
十代でもないのに、緊張と浮足立つ気持ちが抑えられない。
「こっちかな」
スマホの地図を見ながら、ロイさんが先導するのに、斜め後ろをついて歩く。
身長は180cmちょい位だろうか、158cmの私は少し見上げる程で、ジーッと背中を眺めていれば、後ろを気にするように少し歩けば振り返るロイさんに気が付いた。
そんな小さな優しさや気遣いに、心が躍りそうになるも、勘違いしてはいけないと自分に言い聞かす。
「そういえば、あのゲーム会社、別の新しいゲームをリリースするみたいだね」
「そうなの!? 次はどんなゲームなんだろう」
「なんか、同じようなMMOなんだけど、キャラメイク出来て何人も動かせるというより、一人のストーリーを進めていくみたいで」
ゲームの話で盛り上がり、初対面とは思えない程に会話が弾む。
まぁ、メッセージ上のやり取りと同じようなものだと思えば、それは盛り上がるものだけれど、今は顔を合わせているのだ。
ロイさんは、後ろを気にしながら歩いているのに、気が付けば半歩下がって隣に並ぶよう歩き始める。
ドキドキと心臓の音が自分で分かる程に跳ね上がり、その音が聞こえないか心配になる。
いい年齢の女が、こんな事で浮かれあがるなんて気持ち悪いとか思われないかなと、平静を装うようにする。けれど、周囲からは恋人同士に見えるかな、なんて考えれば、なかなか心臓が静まってくれない。
一人だけ内心パニック状態になりながら会話を続けていれば、あっと言う間にアニマルカフェへと着いた。
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