第13話

 減った1人は、確実にまいまいだろう。

最後にコインを投げて消えていくという事なのは、私でも理解できた。

 そんなまいまいが、見ているか見ていないか分からないタイミングで、またもコメントが上がった。


<べびぃどぉる:ナルルはコインなんて要らないもんね>


 当てつけか、牽制か。その内容に不快感が勝る。

 返信をされたひなたんは気が付いていないのか、スルーしているのか。

 一体、どんな世界なのかと思えてくる。気持ち悪さが立ち込める。

 水面下で女同士牽制しあう、そんな中心に居るのはロイさん、私が大好きな人。

 どうして、こうなってしまったのだろう。

 考えても仕方ない「どうして」を、ひたすら頭の中で繰り返す。

 ロイさんは、悪くない。

 けれど、主である以上、完全に悪くないわけという事にはならないのではないか?という考えが過った。


 ――客を決められる自分であれ。


 昔、デザインの学校へ行っていた時に言われた言葉だ。

 安く叩きあげられる、質の悪い客と仕事をするのではなく、成果に見合った客を相手にしろと。

 デザインと配信を一緒にしてはいけないと思うのだけれど、どこかでそうならないのだろうかと考えてしまえば、それが思考を支配した。


 ――どうして、止めないのだろう。

 ――何故、放置するのだろう。


 そんな時、タイミングが良いのか、それとも悪いのか。ロイさんからのメッセージが届く。


『次の配信でして欲しい事とかあるー?』


 何で、こんなに呑気なのだろうと苛立ちが募った。

 今まで愛しくて恋しくて、尊敬する大事な人で。やり取りする時間をとても大切にしていたのに。


『自分の動画についたコメントって、見た?』


 波風立たず、楽しい事だけやり取りしていたのだけれど、今の私に心の余裕はないのだろう。

 送らずとも良い事を送ってしまったと分かっているけれど、もう止められなかった。


『え? どれだろ』

『ファン同士、牽制しあってるよね。配信でもそうだけど』

『そうなの? あれ、牽制?』

『しかも、今回のコメントで、まいまい離れたみたいだよね』

『そうか。仕方ないねー。コインも沢山貰ってたし、いっぱい視聴者連れてきてくれてたんだけど』


 一体、何でこんなに他人事なのだろう。確かに他人の事ではあるけれど、ロイさんは配信主でもあるだろう。

 どうして、こんなにも呑気なのか。

 視聴者は画面の向こう側に居る存在だ。けれど、ちゃんと今、現実として存在している生身の人間なのだ。私だって、今をちゃんと生きている。


『べびぃどぉるって何なの?』

『一体、何が言いたいわけ?』


 ロイさんの、いつもと違う不機嫌漂う文面に、言わなくて良い事まで送ったと理解したけれど、止まらなかった。


『仲良さげだよね』

『だから、何が言いたいの。ハッキリ言って』

『見ていて不愉快なんだよね。彼女なら彼女とか言えば良いのに』

『彼女じゃないし。そんな事実ではない事を勘繰られても不愉快。俺じゃどうしようもない事を言われても困る』

『注意もしないの?』

『そんな事くらいで? しかも俺が悪いわけじゃないし、そこまで怒られる意味もわからない。ご飯誘っても会わないのに、何でそんな口出すわけ? 意味わかんないよ』

『その後ホテルに誘われて、すんなり会うわけないでしょう!』


 これ以上ないくらい胸に痛みが走り、呼吸の仕方を忘れる。

 私はスマホをベッドへ投げつけた。もぅ、これ以上やり取りをしたくないし、見たくもない。ロイさんからも、それ以上通知音が鳴る事もなかった。


「もぉ、無理かもしれない」


 涙が一筋零れ落ちた。

 今まで、色々と我慢して、言いたい事も言わずに、楽しい時間だけを共有していた。それが何より楽しくて幸せな時間だった。

 だけど、それも出来ない程に、私は苦しくて悲しくて仕方ないという気持ちが勝ってしまったのだ。

 忘れるかのように、私はゲームを起動して、いつものメンバーが居る事を確認した。


 しぃ:もぉ無理。

 あすやん:どうした!?

 りっぷ:あちゃ~。何か深刻? パーティ申請するねー!

 あすやん:私も入れろ! あと、シン坊も!

 シン:いや、まぁ暇してるけども……。


 ギルドチャットに打ち込めば即座に返事をくれ、パーティ申請してくれた。

 私は先ほどあった事を全てパーティチャットに打ち込んだ。心の闇を晴らすかのように、一心不乱に説明をしている間は、誰もチャットに打ち込まず聞いてくれた。


 あすやん:呑気だなぁ……。

 りっぷ:いやまぁ、言いたくないけど、ここまでくるとクズ?

 シン:呆れるしかない。

 あすやん:ファンの統率くらいして欲しいもんだ。

 りっぷ:それは難しいんじゃない? でも、注意とかは出来るよね。前してくれてたし。

 シン:言う程の事でもないって話だろ。

 あすやん:しぃが不快感感じてるのに?

 シン:その程度って事。前はたまたまロイさんも嫌だったから言っただけじゃね?


 心にズシリと鉛が乗ったような感覚だ。


 しぃ:嫌われた……。


 こちらも、もう嫌だ! という気持ちもあったけれど、嫌われたと思えば、もぉ全てどうでも良くなる。


 りっぷ:もぉ諦める?

 あすやん:連絡しまくるか?w

 シン:ブロックされそうじゃね?


 もぅ、これで終わりなのだろうと思う。友達だけでなく、ファンとしても。

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