第15話

「うわぁ! 可愛い!」


 ふくろうにハムスター、うさぎや小鳥。何より、ひよこ!


「凄い! 手に乗ってくる!」


 手のひらに餌を乗せて、ひよこにあげれば、勢いよく何羽も手に乗ってくる。

 ふわふわな感覚に、とても癒される。


「餌、追加で買ってこようか!」

「え、良いよ」


 遠慮して答えたけれど、ロイさんは首を左右に振った。


「俺がもっとあげたい!」


 言うなり、ロイさんは追加で餌を4つ程買ってきた。

 スマホ片手に撮影しながら餌をあげて楽しんでいる様子に、可愛いなぁと思い、笑顔が零れる。


「ふくろう、腕に乗せられるみたいだよ」

「あ、乗せてみたい!」

「じゃあ、写真撮るね~」

「後で送ってね!」


 分厚い手袋を嵌め、スタッフの人が言う通りにして待っていれば、ふくろうが私の手にのってくる。


「撫でても良いですよ」

「ホントですか!?」


 スタッフの声に、ドキドキしながら、ふくろうの頭を撫でると、気持ちよさそうにする。


 嬉しくなって、笑顔でロイさんの方を見れば、ロイさんも満面の笑みで此方を見ている。


「可愛いなぁ」

「えっ」


 ロイさんの呟きに、別の意味で心臓が跳ねた。

 きっとそれは、ふくろうに対してだよね。そう自分に言い聞かせ、次に待つ人が居たから、私はふくろうを堪能する事を終えた。


「はい、写真。可愛く笑ってるよ」

「えぇえ!?」


 またしても言われた可愛いの言葉は、私に対してだったのか。


「ロイさんは触らなくても良いの?」

「俺はあっちが良いかな」


 そう言って指さした方向に居たのは、モルモットだった。


「可愛い~!」


 手のひらサイズのもふもふに、私はすぐさまそちらに移動した。


「ロイさん、もふもふした動物好きなの?」

「まぁね」


 ロイさんは愛おしそうにモルモットを眺めていて、その顔に胸が高鳴る。私に、その視線を向けてくれればいいのに、なんて贅沢な思いを秘めながら。


「この後、遅めの昼食をどこかで取ろうか」


 気が付けば、時間は十三時になろうかという所だった。

 午前中に待ち合わせして、そのままアニマルカフェに行ったのだけれど、時間無制限だったからこそ、めいっぱい遊びまくっていたようだ。動物達の威力は凄い。緊張なんて、もうどこへいったのやら。


「賛成!」

「ハンバーガーでも行く?」

「私を女子と忘れていませんか? 初対面相手に大口開けろと?」

「冗談。でも、しぃの好みわかんないし、ファミレスとかでも良かったりするの?」

「私もロイさんの好み分からないので、それで!」


 冗談を言い合える程度には少し慣れたようだ。

 三十代の男女がファミレスという事に少し笑いそうにもなったけれど、ロイさんの好みがさっぱり分からない。ならば色々な種類があるファミレスでも良いし、ロイさんとなら、どこででも楽しいのだろうなと思える自分も居た。

 少し歩いてファミレスに着くと、ロイさんは唐揚げ定食を頼み、私はサラダとハーフパスタを頼んだ。量も調節出来るし、大人だけれども良いチョイスだと思う。

 食事中も会話が弾み、ドリンクも三杯目ともなれば、気が付くと二時間以上たっていた。

 これから、どうしようか。そんな考えが頭に浮かぶ。

 楽しいな、凄く楽しいな。もっと一緒に居たいな。

 欲ばかりが膨らんでいく。


「まだ早いし、カラオケでも行く?」

「行く! ロイさんの歌声聞いてみたい!」

「期待には応えられる程の歌唱力はないよ~」


 嬉しい申し出に、私は即座に肯定した。

 あの声で歌ってもらえるなんて喜ばしい限りだ。

 配信で歌うなんて事はないから、楽しみや期待は果てしない。私だけが聞ける、ロイさんの歌。それが何よりも尊くて大切な時間だ。

 駅から少し離れたカラオケ店まで歩き、三時間パックを選択して入る。

 もっと一緒に居たいのだけれど、今日は絶対早く帰るのだと心に決めて。


「……ロイさん、うまい!」

「マジで? 嬉しいな」

「もっと歌ってよ!」

「しぃも歌えって!」


 息を飲むほどの上手さに、私は次を懇願する。

 ロイさんの声で、歌も上手だなんて、配信なんてすればもっとファンが増えそうで、優越感と勝手な嫉妬が込み上げる。


「歌配信なんてしたら、もっとファンが増えそうだねぇ」

「いや、俺はゲームがしたい」


 そんな言葉に安堵する。

 私だけが聞いている、私だけが聞ける。嬉しさで自然な笑みが浮かぶ。

 嫌いなところなんて見つからない。

 好きだ。大好きだ。

 会って思えるのは、ただ好きという感情が溢れんばかりに増えた事だけ。

 ただ、それだけを実感する事になった時間も終わりを向かえ、私達はカラオケ店を出たのだけれども、外はまさかの大雨だった。


「え、傘持ってない」

「俺も。通り雨かな?」


 そこでしばらく待ってみても、雨は弱まる事もない。ふと頭上を見上げれば、一切星明かりが見えず、ただ真っ暗な闇ばかりだ。


「天気予報見たけど、しばらく止みそうにないな」

「え!?」


 そういえば、天気予報まで確認していなかった事に肩を落とす。

 前日なんて、自分磨きにしっかり時間を使っていたし、それまでは皆に相談というか愚痴を垂れ流す事ばかりしていた。詰めが甘い自分に対し、嫌になる。

 強い雨音で周囲の雑音が耳に届く事もない程で、カラオケ店の軒先に立っていても、地面に跳ね返る雨で靴は濡れていくばかりだ。既に中まで浸透している。

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