第11話

「お、隠し通路がある」


 ひなたん:ロイたん流石! よく見つけたね!

 :メモしておこっと!

 :ありがとうございます!


「ここがエリアボスか~」


 ひなたん:ロイたん、頑張って!


「うわっ! 硬い!」


 ひなたん:ロイたんならいける~! ファイト!


 気が付けば他リスナーのコメントは減ってきて、さくらのコメントもなくなっていた。この配信は、もう二人だけの世界としか思えない。

 だったら、勝手に二人だけでやってくれという思いが立ち込める。いちいち配信なんてせずに、二人だけでゲームしていれば良いのに。

 嫉妬、嫌悪。嫌な自分がどんどん膨れ上がる。


『ありえないわ……』


 あすやんの呆然としたその言葉を最後に、グループメッセージも止まった。


「ボスも倒したし、今日はここで終わるね」


 疲れたような言葉を放つロイさんに、最後までひなたんはテンション高く絡み続けた。ロイさんの声色が変わっている事にすら気が付いていないのか。


【まいまい:コイン×500 ロイロイのペースで楽しんで】


 最後の最後に飛んできた、上限いっぱいのコイン。


「まいまい、ありがとう」


 要らないではなく、安心したような声で感謝の言葉を伝えたロイさんに驚いた。


 金額ではなく、きっと内容に対してなのだろうけれど、たったそれだけで今すぐパソコンを叩き落としたくなる衝動に駆られる。

 諦めたい。なのに、諦めきれない。

 見たくない。なのに、見てしまう。

 どうしようもないもどかしさが、自分を襲う。

 どうして良いのかも分からないのに。




 ◇




 シン:重症すぎるだろ。


 ゲームに入って相談すれば、厳しい言葉が飛び込んでくる。


 りっぷ:恋は盲目と言うからねぇ~。

 あすやん:しぃに関しては、今更感がないか?

 しぃ:うっ!


 自覚はあるけれど他者から言われれば、やはりそれなりにショックを受ける。


 シン:再度止めとけと言っておくわ……無理だろうけど。

 しぃ:うわーん!

 あすやん:せめてもの理性として、好きだと言っていないし、突撃していない事くらいかねぇ。


 諦められないけれど、突撃も出来ない、いつまでも宙ぶらりんな自分。

止めろと言われて止められるものならば、とっくに止めている。こんな辛い片思いなんて。


 シン:都合よく扱われてるだけにしか見えないんだよなぁ。


 都合が良い相手としてでも、私は幸せを感じてしまっているのだ。本当にどうしようもない。

 ホストに狂うとか、会った事ない配信者にガチ恋するとか、ありえないと思っていた昔の自分が懐かしい。今は見事に自分がその真っただ中に居る。

 ただ、貢いではいないだけ。それでも同じようなものだろう。


 りっぷ:とりあえず狩りまくってストレス解消~!

 シン:そういや新エリアの新装備、試してみたいんだよな。

 あすやん:よし! 行こう! 今日はゲームに集中して、明日からしぃはまた自分磨きに勤しめ!

 しぃ:パックしながらゲームしてます~!

 りっぷ:それでも出る夜更かしの肌荒れよ……。

 シン:女子って大変だな……。


 今はロイさん関係の事を全て忘れて、このメンバーでゲームを楽しむ。

 そう決めていても、やはり心のどこかでは、今何をしているのだろうと思ってしまう。ゲームに居ない事を確認しては、他の子とメッセージでもしているのかと邪推する。

 自分は、どうしたいのだろう。

 そこをハッキリさせなくてはいけないように思える程、常にロイさんの事を考えてしまう自分をなくせたら良いのに。




 ◇




『新エリアの装備や新しいスキルとかの配信やるよ~!』

『明日の仕事は大丈夫?』


 新しいエリアの事ならば、配信だけでなく動画も伸びるし、皆が楽しみにしている情報だ。

 こちらとしても装備は試したけれど、スキルまでは試せていないし、一体どんなものか気にはなる。

 既に登録者数は千人を超えているのに、こんな情報を出したら、また一気に増えるのではないのだろうか。


『しぃの肌荒れが心配になるかな(笑)無理せず見られるなら見てね~』

『むしろロイさんの方が毎日動画あげてたよね? ロイさんの寝不足が心配だよ(笑)』


 肌荒れよりもファンが増える事を心配しているのだけれど、なんて内心思うが、心配してくれるロイさんに私も心配の声を返す。

 そこまで試しているのであれば、一体いつ休んでいるというのだろうか。ゲームが楽しいのも分かるけれど、お互い社会人だ。さすがにサボったりは出来ない筈なのに。


『大丈夫(笑)今から始めるね~!』


 何の仕事をしているとかまでは知らない。

 見事にスルーされたかのような気持ちになりつつも、ロイナルちゃんねるを立ち上げて、配信を待つ。


 ひなたん:ロイたん(はぁと)わくわく(はぁと)

 :おー! 今日も配信だ! おつ!

 :新エリア情報助かります!

 :癒されに来ました! イケボごちです!

 まいまい:仕事は大丈夫なの~?


「……あれ?」


 いつもイチコメを取っていた、さくらが居ない。

 居たら居たで気分が落ちるものの、居なければどうしたのだろうと、少し心配な気持ちが出て来る自分が不思議に思えてしまう。



「食われた……?」


 相変わらず威勢の良い、ひなたん独壇場となるコメント。

 配信待機の画面はそのままに少し調べてみれば、さくらはひなたんにSNSでまで絡まれている。DMするね!という文字もある辺り、DMでも絡まれているのだろう。

 内容はロイさんを称えるようなものだったりするのだけれど、それでも、そこはさくらのSNSなので自重するべきだ。そして、これがDMも含めて常に来ているとしたら面倒以外、何物でもない。


「ご愁傷様」

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