第7話
『放っておけばいいのに』
『ロイさんに迷惑かかってもいけないので~』
ファン同士の諍い、揉め事。配信者に飛び火する事だってあるだろう。
面倒事に巻き込まれるのが嫌というのも本心だけれど、ロイさんがしたい事をするのも私にとって大切な事だ。
私は私の気持ちを押し殺す。絶対に知られてはいけないと。
ロイさんとの関係を変えたくない。ファンの人達に知られて、ロイさんの活動を邪魔したくない。
密かに思うだけにしよう。隠れて配信を眺めるだけだ。
『別にしぃなら良いよ。しぃは特別だから』
決意した瞬間、揺らぐような言葉が送られてきた。
――特別。
その言葉に動揺して、頭が働かない。
きっと、冗談だ。冗談に決まっていると、私自身を落ち着かせて返事を考えていれば、更にメッセージが入ってくる。
『会ってみたい』
『私、不細工なので(笑)』
断りたいけど断るという事も出来ず、わけの分からない返事をした後、思いっきり後悔する。
いや、でも容姿に関しては人それぞれの好みがあるわけで。ロイさんから見れば私なんて生理的に嫌悪する顔つきかもしれない!
『関係ないでしょ(笑)』
『そんな簡単に会ってどうするの? 私がハゲデブ加齢臭のおっさんだったりするかもよ?』
自分自身に何を言っているのだと突っ込みを入れたい程、意味不明な返しをしてしまった自覚はあるけれど、もう止められない。
『それでもゲーム話題は楽しく出来そうだし、気が合いそうなのには間違いないでしょ(笑)』
いっそロイさんの方から断って欲しいという気持ちもあったのだけれど、嬉しい言葉だけが返ってくる。
『ロイさんって、女性の容姿より内面重視?』
素朴な疑問だった。
どんな人が来ても良いと言うのであれば、異性に対してもそうなのかと。何か言われたら、そう誤魔化せる道もあると思って、送った。
『理想と現実は違うからなぁ。言うなれば細身で綺麗系かな?』
『ハードルたっか!』
『元カノ、モデルだった(笑)』
笑えない。全く笑えない。
何、その情報。
私から聞いた事とはいえ、聞きたくなかったという後悔が押し寄せた。
『現実的な話に思えない私は夢の世界へ旅立ちます(笑)』
『おやすみ(笑)』
朝起きたら綺麗になっていれば良いのにと願いながら、私はベッドへ潜り込んで悲しみに浸った。
あすやん:ロイナルはホストか?
りっぷ:ホストなら、もっと違う事してこない?
シン:とっくに金を巻き上げられてるだろ。
しぃ:失礼な!
あすやん:貢いでそう。
りっぷ:自分を差し出してそう。
シン:騙されてそう。
しぃ:私をなんだと思ってるの!?
バレないようにと決意した心と、揺れ動く感情を、先日のやり取りと共にギルドメンバーへ言葉を吐き出していた。
あすやん:いやもう、しぃはしぃだろ。
チャットを打ちながらも、あすやんは大剣での技を繰り出していく。
あすやん:後悔しないようにイけとしか。
りっぷ:どっちのイけ!?
シン:逝けなら笑う。イきろ。
りっぷのサポート魔法で、シンの弓が敵を捕らえた瞬間だった。
しぃ:勝手に殺さないでよー!
チャットに夢中となっていた私は、タンクの役割を放棄してしまっていた。つまり、ヘイトがあすやんやシンのように火力が強いキャラへと向かったのだ。
あすやん:しぃー!!
シン:草生えるw
りっぷ:オワタ……。
しぃ:ごめん……。
タンクとサポーターだけでクリア出来るボスでもない為、倒せず終わり、近くの街にある高台へと向かった。
この場所は、遠くまで見渡す事が出来る為、絶景ポイントの一つとして数えられている。今は見事な夕暮れ時で、世界がオレンジ色に覆われていた。
あすやん:しぃが悩みまくってるし、じっくり腰を据えて話しますか!
パーティは解散しないまま、周りに居る雑魚モンスターを狩りながらチャットを繰り広げる。
りっぷ:アドバイスできる事は皆無だから聞くだけになるけど(笑)元カノがモデルって強くない?
サポートメインのりっぷは、くるくると踊るモーションを繰り広げながらチャットをしている。
しぃ:顔面どころか、スタイルにも自信ないよ~(涙)
あすやん:最強伝説。勝てる気がしない。どこで出会ったんだろ。
シン:中身勝負?
密かにスミス職へと切り替えているシンは、何かを制作しているのだろうか。話をしながらも、各々、好きな事をする気楽な関係だ。
りっぷ:だけど、やっぱ第一印象って外見じゃない?
シン:既にゲームで知り合ってるから第一印象と言っても微妙な気がするけどなぁ。
あすやん:やっぱリアル突撃か!
しぃ:無理だってば!
りっぷ:じゃあ、とりあえず自分磨きに勤しむ?
あすやん:それだ! 栄養学的なものは任せろ! 息子を育てるのに独学した!
しぃ:頼もしい!
りっぷ:さすが!
こんな心強い人が居るなら、栄養バランスを考えた食事から始め、ダイエットしよう。
シン:素晴らしきおかん。……てか、俺は今でも諦められるなら止めとけって思う。
しぃ:同じ男目線として?
シン:うん。まぁ無理だから愚痴ってるんだろうけど。
あすやん:説得力ある~……。
唯一の男であるシンの言葉は、本当に説得力がある。
止めろと言うのであれば、止めた方が良い相手なのだろう。
分かってはいる。分かってはいるけれど、頭と心では全く別で、気持ちが付いてきてくれないのだ。
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