第6話
古参メンバーの人達も、配信中に盛り上がる所だけコメントをするようになっている。
コメントのほとんどがロイさんを褒め称えるもので、ゲームの内容なんて皆無だからだ。
「今日はレアアイテムが手に入るか挑戦します! ドロップしたら終わり。ドロップしなくても日付が変わるまでになるけどね」
画面が切り替わり、ロイさんの声が聞こえた瞬間だった。
【まいまい:コイン×100 今日も配信ありがとう!】
「いや、まいまい! コイン投げなくて良いから!」
ロイさんの焦った声も良い。
ちなみにコインは、視聴者が課金したアイテムで、投げるとコメントに色がついて目立つ。1コイン十円くらいで換金も同じくらいだが、運営が三割手数料として取り、残りはロイさんの収益となる。一日に投げられる上限は500コインだ。
【さくら:コイン×100 良い声に癒されたお礼でしゅ(はぁと)】
「さくらも! ゲームを楽しんでもらえば良いだけだから」
【さくら:コイン×100 名前呼んでもらえて、うれしぃでしゅ(はぁと)】
「追いコイン要らないから~! もう連戦行くよ!」
ロイさん自身のファンというか、最早ロイナル教の信者なのかと思えてしまう私は、僻んでいるのだろうか。
推しとか、よく分からない。どうしてそこまでコインを投げるのかも分からない。
それは、私がロイさんと長い付き合いで、友人のような関係だからだろうか。
:かっこいい~!
:イケボすぎ!
:ロイナルさん、大好きです!
:(はぁと)(はあと)(はぁと)
ロイさんの声を聞きながら、私は画面をボーッと眺める。
神楽:その敵と連戦しよう思ったのが凄い。
昔から居たメンバーのコメントに少し安堵の息が漏れる。
ここ最近、私はずっとコメントを打っていない。女同士の戦いが水面下で繰り広げられているようで、正直、怖い気持ちがあるからだ。
コメントを打って、アピールする。
既に友達という位置に居る私だから、そんな気持ちになるのかもしれないけれど、そんな人達と同一の立場に居たくないという反発心もある。
「全然でないなぁ」
:やっと喋ってくれた!
神楽:まだ十回(笑)
:声に癒される~(はぁと)
きのぴー:そう簡単に出たらレアじゃないよ(笑)
新規に混じってコメントが出来る古参に、少し羨ましさを感じる。
そこまでの度胸というか、気持ちが、私にはない。
「やったー! 出た!」
神楽:時間ギリギリ(笑)
はる:やっぱレアは時間かかるね~。
:お疲れ様(はぁと)
:かっこよかった!
:もっと喋って(はぁと)
きのぴー:時間内にレアが出た事自体、もはや凄い。
【まいまい:コイン×100 ロイロイの一番のファンだよ(はぁと)】
何とか日付が変わる前にレアアイテムを取る事が出来たロイさんに、続々とコメントが集まる中、またもコインが投げられた。
内容に私が言葉を失っていれば、後を追うように、またもコインが投げられた。
【さくら:コイン×100 しゃくらもロイしゃんの大ファンだよ!(はぁと)】
牽制しあうかのようなコイン投げの後、負けないとするコメントも、どんどん映し出されていく。
:私も大好きです!
:コインが全てではない筈!
:給料日前なのが悲しい(涙)
:好きの気持ちは負けない!
「いや、コインは良いから! じゃあ今日はもう終わるね~!」
終わる配信。
私は呆然としつつも、スマホに手を伸ばす。
『お疲れ様! アイテム落ちて良かったね』
コメントは打てないけれど、メッセージだけは送る。ちゃんと見ていたよ、という意味を込めて。
すると、ロイさんからすぐに返事が来た。
『落ちてくれて良かったよ~! 無謀な挑戦だったかも(笑)』
『確かにね(笑) 落ちなかったら消化不良だったね』
『落ちるまでチャレンジになる(笑)流石に、それは飽きる(笑)』
『配信者は辛いね!』
テンポよく返ってくる事に安心感を覚え、どこかモヤッとした苦しさがあるものの、楽しい気持ちが芽生える。
少しだけ笑みが漏れ、やっぱり好きだな、なんて自分自身に呆れながら思う。
『どうして最近コメントくれないの?』
届いた文字に、一瞬、息をすることも忘れた。
気が付いていたのか。
私を気にしてくれていた事は嬉しいけれど、最近のコメント欄は空気が変わってきている事に、ロイさんは気が付いているのだろうか。
文字を打っては消してと繰り返し、私は何とか文章を作り上げた。
『新しい人が多くて、戸惑ってる感じかなぁ』
事実ではある。ただ、言葉の裏には色々な思いがあるだけで。
『気にしなくて良いのに(笑)』
『気にするよ~! ロイさんのファンが増えすぎて、もぉ遠い人のようで(笑)』
『遠くないし(笑)むしろ近い方だし(笑)しぃは、しぃのままで良いの』
そんな言葉を貰える事は嬉しいけれど、今の関係で良いとも思う。
牽制しあうコメント。ネットの中は色んな危険が孕んでいる。誰が何をするか分からない。どこで現実世界に手を伸ばしてくるかも分からない。
例え現実に手が伸びなくても、ゲームの中で面倒ごとに巻き込まれたくない。
正直言えば、面倒ごとは現実だけで良いと思っている。
ネットはネットの中として楽しみたいのだ。
『ロイさんファンの人達が、好きと連呼しているのを邪魔するのも悪いかと(笑)』
冗談めいて返すけれど、そういう思いがあるのも本当だ。けれど、邪魔をしたいという悪い私も居たりはする。
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