第5話

 ロイナル:今日は家で仕事してたから、合間にアップしたんだよね(笑)

 しぃ:私が一番じゃないのか~。残念だな~!

 ロイナル:しぃ、まだ仕事中だったでしょ(笑)


 少しだけロイさんの事を知れたのと、私の生活時間を知ってもらえている事に嬉しさを感じたものの、なら7の生活時間も知っているのかと胸が更に痛む。

 ただの想像でしかなくて、実際どうかなんて分からない。けれど、悪い考えばかりが頭を占めていく。


 ロイナル:視聴数少しあるし、楽しくゲームする人を増やしたいから、これからちょっと動画編集を頑張ってくわ!

 しぃ:じゃあゲームはあまりしないって事?

 ロイナル:う~ん。するけど、配信とか編集用になるかなぁ? あ、素材やアイテム取得は、また手伝ってもらうかも!

 しぃ:任せて! 動画や配信、待ってるから!


 寂しさや悲しみを隠して、私は応援する。

 ロイさんのやりたい事を見守るだけだ。ロイさんが楽しそうにしているのが、私も嬉しい。

 ゲームでイベントが追加されたら誘ってみようかな。もしくは情報提供できるだけ私がやりこむのもありかな。なんて、定かではない未来を想像して心を躍らせる。


 :配信者のロイナルさんですよね!? ファンなんです!

 :私も配信見ました! 推してます!

 :私も! キャラかっこいいです!


 いきなり、近場に居る人だけが見る事が出来るチャットに、ロイさんの名前が表示された。

 人がほとんど居ない場所だから、パーティやギルド、個人間のチャットだけが表示されていたのだ。

 まぁ人がほとんど居ないと言っても、細道を探索したい人だって居るわけで、そういう人達もたまに居る。

 その人達も、チャットに集中しているのか、モーションしながら佇んでいるだけのようにも見える。

 だからこそ、この人達のチャットが見えたのか、ウロついて場を離れる人も見えた。きっと、チャットに集中できる他の場所へと移動するのだろう。



 :凄い穴場!

 :景色良いですね!

 :何してたんですか?

 ロイナル:動画のアップ終わって、次は何をしようか考えてたんだよね。


 ファンサービスか。まぁ、自分の配信を見てくれている人を無碍には出来ないよね。


 しぃ:落ちるね。

 ロイナル:了解。


 個人でチャットをやり取りし、パーティを解散する。

 会話が気になる私は、少しだけ離れるもチャットが届く範囲をうろつく。


 :動画のアップ!? 見てこよー!

 ロイナル:ありがとう! 是非!

 :次の配信予定はあるんですか?

 ロイナル:次に何するか決まったらかな。


 他愛のない会話。だけれど、私との時間がなくなった事で、嫉妬や妬みに似た感情が沸き起こる。

 気になるけれど、これ以上、見たくない。醜い自分を知りたくない。

 私はそのままゲームからログアウトすると、スマホの通知音が鳴った。


『なんか、ごめんね』


 私のログアウトを確認したのか、ロイさんからすぐにメッセージが入った。


『ううん、ロイさんは悪くないし。ファンが出来たのは良い事だよ!』

『ん~……でも、ちょっとゲームがしずらくなるのは嫌だなぁ』

『それは仕方ない! 色気ある声が悪いんでしょう(笑)』

『ボイスチェンジャー必要?(笑)』


 気にしてくれているという嬉しさを胸に、返事をする。

 この歳になってまで、ちょっとした事で一喜一憂する私は、忙しいやつだと自分でも自覚はしている。


「遠い人になっていくみたいだなぁ……」


 呟いて、ベッドへ横になる。

 心の本音を口に出せば、連動するかのように寂しさで感情が埋め尽くされる。


「一晩寝れば、忘れる!」


 自分自身に言い聞かせるように言葉を放ち、私は眠りについた。




 ◇




『雨降ってる。傘持ってきてないー』

『こっちも雨だよ! 風邪ひかないようにね!』


 一日も欠かさずくるメッセージは、他愛のない事が多い。

 それでも心は弾むし、嬉しい気持ちでいっぱいになる。反面、誰かとも連絡しているの?と言う疑問もよぎる。

 連絡のない昼休憩だろう時間は、他の誰かとメッセージのやり取りをしているの?

 そんな想像をして胸が苦しくなっていれば、タイミング良くロイさんからのメッセージが届いた。


『また今日も配信する予定! 残業しないようにするぞー!』

『そうなの!? じゃあ私も仕事残さないように頑張ろ!』

『ネタがないから、どれだけ頑張ればレアアイテムがドロップするかっていう挑戦なんだけど(笑)』

『二十四時間耐久でもするつもり?』

『いや、タイムリミットは日付変わるまで! 明日の仕事に響く!』

『社会人に助かるリミットだね(笑)』

『見てる人も社会人多いからね~(笑)』

「よし、頑張ろ!」


 ちょろい自分に笑いそうだ。だけれど、それだけで午後の仕事は捗るだろう。

 毎回欠かさず予告してくれる配信を、私は欠かさず見る。

 だけれど、最近一気に動画の再生数も伸び登録者数が五百人を超えて、少し配信の様子が変わってきたから、入るのに躊躇う気持ちはある。


 さくら:ロイしゃん、今日も配信しゅるのね! まだかにゃ~楽しみ(はぁと)

 さくら:やったー! イチコメゲットにゃり!


 待機画面になった途端、入るコメント。

 さくらという人は、毎回一番初めにコメントを入れる。それこそ毎日待機をしているのかと思える程だ。


 まいまい:イケボ待ち~! ロイロイ、早く!


 新規のコメントが増えていく中で、私はコメントする手を止めた。

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