第4話

 シンこと、真部慎司。私と同じ三十三歳で、土建屋をしている。面倒見が良く正義感も強いので、きっちりギルドマスターとしての役目もこなせている。

 あすやんこと、桜井明日香。四十歳でバツイチ。早くに結婚出産をした為、高校生の息子が居る。旦那の暴力から逃げ出して離婚し、シングルマザーとして子どもを育てる為に、夜間学校へ行って看護婦になった人だ。大雑把なのだけれど、物事をハッキリ言うのは、そんな過去があるからかもしれない。

 りっぷこと、須田楓は二十七歳だけれど、まだまだ中身は幼い所があり、可愛いものが大好きだ。同じゲームの中で知り合った人と付き合って、直ぐに同棲を始めた。自称恋愛体質のメンヘラだと言い切っている。


 りっぷ:体の相性を確かめるのも、確かにありだと思う!

 シン:りっぷまで……いや、自分を大事にしろよ。

 あすやん:自分に正直となるのも大事だ!

 しぃ:嫌われたらどうしよう……。

 あすやん:くそネガティブ……。

 りっぷ:ワロタ。男の意見としてはどうなの?


 食い入るように画面を見る。確かに男側の意見は欲しい。

 シンが書き込むだろう内容を、黙って待つ。


 シン:いや……言いにくいんだが……。

 しぃ:教えて! 正直に! 会おうとかホテルとか、実際どうなの?


 お願い。

 気になってもらえているのか。それとも、軽いだけなのか。

 相手の言葉に一喜一憂してしまう自分に疲れると思うけれど、感情の制御なんて全く出来ない。


 シン:本命には言わない……どうでも良い相手だけかな……。

 あすやん:シン坊ー!

 りっぷ:まず体からって事もあるよね!?

 シン:でも、会った事もないのに、初っ端から誘わないって。男も拒絶されたり嫌われるのは怖いもんよ?


 鉛が乗ったように、身体が重く感じる。

 思考が一旦停止した後、悲しみに襲われるけれど、納得する気持ちの方が強い。


 しぃ:だよね……。

 あすやん:要はしぃの気持ち次第だ!

 シン:やめとけとしか言えないけどなぁ……。

 りっぷ:当たって砕けろ!

 あすやん:砕けちゃ駄目だ! そこは心を保て!


 応援しているのか、していないのか。

 悲しくて、今にも泣きそうなのに、皆とのやり取りで笑みが零れる。


 しぃ:ありがとう! 会わない(笑)

 あすやん:なら会うな(笑)

 シン:そうしとけ。

 りっぷ:嫌なら会わない! 会いたければ会う! それだけ!


 そんな皆が大好きで、私の心は救われているのだと思う。

 でなければ、会った事もない人を好きだと言う気持ちを吐露する場所もなく、心が苛まれていっていただろう。


 しぃ:ありがとう! みんな大好き!

 あすやん:それ、ロイナルに言ってやれ(笑)

 しぃ:言えるか!(笑)


 友達だからこそ言える言葉。

 とても大事な言葉だけれど、可愛いと簡単に言うかのごとく、簡単に放てる人と、そうでない人が居る。

 私は、ロイさんには言わないだろう。否、言えない。

 このままの関係で、ずっと友達で居たいから。離れたくないから。

 変わる事が怖いから。




 ◇




「あぁあ疲れた」


 派遣とはいえ、責任感はそれなりにあるし、疲れは溜まる。

 帰ってベッドに倒れ込んだ瞬間、スマホの通知音が鳴り、慌てて鞄の中を漁る。


『やっと動画の編集が出来たよ!』


 待ちわびたロイさんからの連絡。

 それだけで、心の疲労は吹っ飛んでいく。


『待ってました~!』

『ゲーム入らない? 感想を聞かせて欲しい!』

『いきます! いつもの所ね!』


 パソコンを立ち上げている間に、携帯食と飲み物を準備し、ゲームにログインすれば、最初の町から遠く離れた場所に位置していた。

 皆と素材集めをしていた場所のままログアウトしたからだろう。慌てて私はチャットを打ち込む。


 しぃ:離れてるから、少し待っていて!

 ロイナル:了解~! 招待だけ送っとくね。


 器用にキャラを動かしながら、部屋着へと着替える。

 このままゆっくり、夜遅くまでロイさんとゲームをするのだと胸を躍らせながら準備をした。


 しぃ:お待たせ~! 今から見てくるね!

 ロイナル:うん。動画編集って結構大変だった(笑)

 しぃ:お疲れ様(笑)


 今や無料で動画を作るサイトやアプリが多々あるけれど、作業は細かいだろうなと、デザイン作業を思い出しながら想像する。

 切り抜き、文字入れ、音声など、レイヤーみたいなものを多数使うだろう。それに見やすい画面と考えれば、そこにデザイン的な要素まで組み込まれる。

 楽しみにしながら、ロイさんのチャンネルへ行ってアップされたばかりの動画をすぐにクリックする。

 概要欄を読んでいれば、ふとコメントが既にある事に気が付いた。


「単体ボス戦のポイント」


 ロイさんの声が画面から流れ、動画はまず、アイテム紹介へと進む。

 耳はロイさんの動画に傾けながらも、私の視線はコメント欄に釘付けとなっている。


 <7:しっかりポイント抑えられていて、分かりやすいです!>


 一時間前に投稿されたコメントで、私が一番じゃない事を理解し、心が痛む。


 ロイナル:どう?

 ロイナル:しっかりポイント抑えられたと思うんだけど。

 ロイナル:動画に集中してるのかな。


 気が付けば、ゲームのチャット画面はロイさんの名前で埋まっていた。


 しぃ:うん! 見てた!

 ロイナル:どうだったー?

 しぃ:しっかりポイント抑えてるね! カメラワークも絶妙(笑)

 ロイナル:カメラワークはゲーム内での仕様(笑)


 二番煎じとなってしまった言葉。

 古参の7さんとも連絡先を交換しているのかな。

 聞きたい。けれど、聞けない。真実を知る事が怖いのだ。


 しぃ:既にコメントついてる! 流石!


 揶揄うように、問いかける。

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