第3話

 ロイナル:まぁ、確かに昔から声は褒められるけど(笑)


 いきなり戻された話題に、ドキッとした。


 しぃ:確かに(笑) 声はカッコいいよね!

 ロイナル:声だけじゃないかもよ?(笑)

 しぃ:自意識過剰ですか~?(笑) なら顔出ししてみる?

 ロイナル:絶対嫌だ(笑) 声だけでも十分でしょ(笑)


 鼓動が高鳴る。

 文字だけのやり取りだからこそ、そこに表情や声色なんてものがなく、これが本気か冗談なのかの区別もつかない。

 勘違いしては駄目だ。これはネットなのだからと、平静を装いながら私はチャットを打つ。


 しぃ:声だけ男前(笑)

 ロイナル:声だけでイかせる自信がある!

 しぃ:いきなりの下ネタ?(笑)


 あの声で囁かれたと想像するだけで、下腹部が疼いて熱くなる。

 早くなる鼓動で胸が苦しくなってくるのを、誤魔化すように、かわす。こういう時、文字だけなのは本当に便利だと思う。


 ロイナル:ホテルで試してみる?(笑)

 しぃ:顔バレしますよ?(笑)

 ロイナル:しぃなら良いよ(笑)

 しぃ:何言ってんの~! ネットには危険が潜んでるんだよ? 私が危険人物かもしれないでしょ(笑)

 ロイナル:しぃとは付き合いも長いし、信頼もしてるんだよ。

 しぃ:それは嬉しい。


 素直に感情を吐露した。これは言っても良いと判断して。

 信頼されているのは、素直に喜ばしい事だと思う反面、更に鼓動が早くなり、頭にまで響いてくる程だ。

 こんなに心臓というのは高鳴るのか。


 ロイナル:本当にしぃとは気が合いそうだから、リアルで会ってみたい気はする。

 しぃ:まだ言うか!

 ロイナル:良かったら、ご飯でも行こうよ!

 しぃ:いつもの冗談かな?

 ロイナル:本気! その後はホテルで(笑)

 しぃ:却下します~!


 意外と軽いんだ。

 ロイさんのそんな一面を知って、胸に少しだけ痛みが走る。


 しぃ:他の人にもそんな事を言ってそう(笑)スキャンダルな炎上は止めてよ~?

 ロイナル:誰にでも言ってるわけじゃないし(笑)しぃの事は信頼してるから大丈夫!


 冗談めかして続く会話。だけれど、そこには本音もある。


 ロイナル:明日も仕事だから、そろそろ寝るわ。

 しぃ:おやすみなさい! 良い夢を!

 ロイナル:おやすみ~!


 何が大丈夫なのか。信頼している子であれば言うのだろうか。

 ネガティブな方向に考えがうつっていく。


 ――私がロイさんと出会ったのは、半年くらい前。


 毎日ゲームをしていたけれど、時間が合わない時があれば、勿論会えない。そんな時は三日と開けずに、ゲームでメッセージが送られてくるのだ。

 ほぼ毎日と言って良い程のやり取りは、そのうち仕事の休憩中でも、メッセージを確認する為だけにスマホからゲームにログインするようになった。

 ロイさんの方も同じだったのか、返事は夜だけではなく朝や昼にも送られてくるようになった。

 そうなれば、ロイさんの方から連絡先を聞かれたけれど、私は今のままが良かったから頑なに拒んでいた。

 付かず、離れず。そんな距離感。

 ただ、ネットで知り合っただけの人だ。惹かれていく自分に気が付いていたからこそ、最後の境界線だけは保っていたのだけれど……ロイさんの方からメッセージアプリのIDを送られてきては、それを拒める程の自分ではなかった。

 これ以上、好きになっても無駄なのに。

 憧れのままで良かったのに。

 ロイさんの事をこれ以上知って、更に気持ちを深める事を自分自身で拒んでいたのに。

 自分の気持ちに勝てなかったのだ。

 ただ、連絡先を交換したと言ってもメッセージアプリだけ。本名も知らず、未だにハンドルネームで呼び続けているし、電話をした事もない。電話をすれば、更に気持ちが加速してしまうのは分かっていたし、ロイさんから電話がかかってくる事がないのも理由だ。

 そこに救われている部分もあるという複雑さだけれど。




 ◇




 あすやん:じれったいなーもう!

 りっぷ:それで? 今日はロイナルさん居ないの?


 今日はゲームで別の仲間達とパーティを組んで、素材収集をしている。


 しぃ:今日は動画の編集をしてみるって。

 あすやん:あ~、いつも配信ばっかだもんね。

 りっぷ:ライブ配信は長いし時間的にも見られません~! ポイントを抑えた動画があれば助かるね!

 あすやん:そして増える視聴者と登録者、増えるファン。

 しぃ:うぅ……。

 シン:で? しぃはどうしたいわけ?


 ロイさんと出会った頃に知り合った三人は、私とロイさんの仲も知っている。

 シンが立ち上げたギルドのメンバーでもあり、私もその一員なのだけれど、私がロイさんを優先している事を快く許してくれる。なんなら応援もしてくれてもいるのだ。


 しぃ:今のままが良い……けど、ホテルとか会おうとか言われたら揺らぐよぉ……。


 泣き言や本音も、ここでならば簡単に吐ける。


 あすやん:ならヤってこい!

 シン:なんて事を言うんだ! おかん!

 あすやん:ぐだぐだ悩んでる暇があるなら、一発かましてきた方が楽になる!

 りっぷ:さすがだ……。立派に息子一人育てているだけある……。

 あすやん:君等は私にとって、大きい子どもみたいなものだ!

 シン:七つしか変わらないじゃないか……。


 ネットの世界は危険だと言うけれど、私達は皆、お互いの個人情報をある程度知っていたりする程の仲だ。


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