第2話
神楽:頑張って!
きのぴー:ロイナルなら大丈夫!
応援コメントが溢れる中、私はコメントを打つ余裕もなく、ただロイさんのキャラコンを心躍らせながら眺めていた。
きっと、ロイさんなら大丈夫。
軽やかにかわし、優雅に攻撃する。ただゲーム内なのに、その動きは洗練されたかのようで。どれだけ熱心にこのゲームをプレイしているのかが分かる。
:初見です!
:良い声ですね!(はぁと)
:キャラもカッコいい~!(はぁと)
単体ボス討伐という事もあってか、新規が何人かコメントが入るも、中にはゲームと関係のない内容もある。
ボス戦に必死なロイさんは、そのコメントを読む事も出来ていない。それに少し安心する自分が居る事に気が付いた。
いつからとか、どうしてとか、そんなの関係がなく、私は気が付けばロイさんの事を好きになっていたのだ。
ゲームというよりロイさん中心の生活で、いつの間にか私の中でロイさんの存在は、なくてはならないものになっていってしまった。
最初は、ただのゲーム仲間だった。私が野良で狩りをしていた時に効率よく狩る為なのか、ロイさんが一緒に狩ろうと声をかけてくれたのが始まり。
それでフレンド登録をして、時間が合えば一緒に狩りへ行って遊んでいた。
お互いの生活スタイルが似ていたのもあるし、ロイさんは火力重視、私は基本的にタンクだったのも大きな理由だろう。
「よっしゃ! 勝ったー!」
鼓動が跳ねる。
アイテムで火力を上げて、見事な双剣のキャラコントロールで、ギリギリながらもボスを倒しきったロイさんの嬉しそうな声に、こちらまで幸せな気分になる。
神楽:さすがロイ!(笑)
きのぴー:お見事!(拍手)
はる:私にそのキャラコンは無理だ~!(汗)
古参達が次々にコメントをしていく中、私もコメントを送る。
しぃ:おめでとう!
打ち込んだ後、小さく拍手をする。勿論ロイさんに聞こえてはいないけれど気持ちの問題で、私自身がとても喜ばしく思えたからだ。
こういう時、画面の向こう側で残念な気持ちと、こんな喜んでいる自分を見られていない事に安堵する両極端な気持ちで苛まれる。
「応援ありがとう! 次の配信も楽しみにしていてね!」
:チャンネル登録しました!
:次も楽しみにしています!
:キャラコンやキャラだけでなく、声もかっこいい!(はぁと)
:好き声!(はぁと)
:推し~!(はぁと)
次々と流れる新規のコメントに、思わず手を止めた。
ゲームと全く関係ないコメントに悲しみを覚え、増えていくファンに寂しさも覚える。
ロイさんは、ただゲームが好きなだけだ。そして有用な情報を配信して、皆にもっと楽しんでもらいたいと言っていたのだけれど、それとは関係のない部分でも人が集まってくる。
それだけ、ロイさんに魅力があるとも言えるのだけど。
「チャンネル登録ありがとう! じゃあまたね~」
その言葉の後に、ロイさんの配信は切られた。
ファンが増えて、登録者が増えるのは喜ばしい事なのだけれど、どこか複雑な心境だ。
「遠い人になっていくみたい」
ポツリと呟けば、それが現実味を帯びて、感情が悲しみに支配されていく。そんな時、通知音が響きスマホにメッセージが届いた事を知らせる。
『今から一緒にゲーム出来る?』
ロイさんからだ。
『すぐいく!』
悲しみから一気に浮上し、すぐさまゲームへログインすると、待っていたようにロイさんからチャットが届いた。
ロイナル:今、最初の村に居るよ。いつもの場所!
しぃ:わかった、すぐ行くね!
ロイナル:あ、パーティ招待送るね(笑)
届いた招待を承認して、同じパーティを組んでから最初の村へ向かう。個人チャットも出来るのだが、パーティを組んでいれば相手の状態や場所まで分かるので、便利なのだ。
最初の村は、色んな野良の人が全体チャットでパーティを募集していたりして賑やかだ。それに、全体の掲示板やゲーム内で売買出来る場所までもあるし、海辺の村なので近くには絶景ポイントも多々ある。
私は村の入り組んだ狭い道を歩いて、海が眺められる小さな民家にある浜へと向かう。
ここが、いつもの場所。いつも二人で休憩しながら、ゆっくり会話をする時に使っているのだ。
ロイナル:今日の配信、無謀だったなと途中で諦めかけたよ(汗)
しぃ:それでもクリア出来てたじゃない! 凄いよ!
ロイナル:ありがとう! しぃが協力してくれたお陰だよ(笑)
座ったり、寝転がるモーションを繰り広げながら、チャットを楽しむ。
しぃ:最近、登録者数も増えてきてるよね!
少し複雑な気持ちもあるけれど、喜ばしい事だからと、文字を打つ。
ロイナル:あー。視聴者はいつもの人が多いけどね。まぁ、俺はゲームを楽しみたいだけだし、有益な情報があれば皆に教えたいだけだから!
しぃ:でも、凄い事だよ! いっそ収益化してみれば?
ロイナル:いや無理でしょ(笑)しぃみたいに出来ないって!
しぃ:むしろ私は声かけてもらわない限り、デザインの仕事ないよ?
ロイナル:でも凄いって! まぁ、俺も楽しんでゲームしながら収益になれば、確かに良いのかもしれないけど。
私の事を少しでも覚えていてくれた事に胸が高鳴る。饒舌になったように、つい文字を打ってしまう。
しぃ:収益化の設定はしたまま、楽しく配信を続ければ良いんじゃない? まぁ、ゲームではなく、声に惹かれて来てる人も居るみたいだけど……。
ロイナル:だねぇ……。まぁそれでゲームしてくれたら、イベント増えたりするから、こっちとしては有難いけど。
しぃ:確かに! そして収益でれば更にラッキー!
ほんの少しだけ、嫉妬や寂しさを含んで出した言葉だった。けれど、ロイさんは変わらない。ただ、純粋にゲームを楽しんでいるだけで、そんなロイさんに少しだけ安堵の息を漏らしながら揶揄った。
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