ネットゲームで知り合った配信者に恋をした
かずき りり
第1話
このまま枯れていくと思っていた。もしくは、妥協。
愛とか恋なんて、私のリアルには咲かないと思い込んでいた。
「っ!」
唇を必死に噛みしめ、声が漏れないように耐える。
けれど、大切な人の手が敏感な部分に触れる度、私は反応してしまう。
「あっ」
「もっと声出して良いよ」
甘い魅惑的な声に酔わされて、私は自我を保っていられなくなりそうになる。
「気持ち良い?」
「い……いっ」
深くまで繋がれば、形までもがしっかりと分かる。
「も、イくっ」
「いっぱいイって?」
沢山押し寄せる快楽の波が、より一層強まっていく。
好き。大好き。
そんな言葉は、絶対口には出さない。
だって、付き合っているわけではないのだから、一時の快楽で放つ言葉でもない。
「あぁあっ!」
「俺も、もうイきそう……っ」
この年になれば、最初の体験なんて記憶の彼方だ。処女を大事にと言うけれど、不特定多数と行為をしなければ良いとさえ思えている。心配なのは病気や妊娠だけだからだ。
だからこそ今は、最後の人を選び取りたいと思っていた。
自分にとって最後で、身体にしっかり刻み込まれた、残しておきたい温もりの人を……。
最初ではなく、最後の人。
そんな事を夢見ている。
「気持ちよかった?」
「……うん」
どうして、こうなったのだろう。なんて考えるだけ愚問だ。
ただ言えるのは、出会えた事は良かったのか、それとも悪かったのか。私の感情的には、そこだけなのだ。
「またね」
「……またね」
大好きな人と思い合えるのは、どれほどの奇跡なのだろうか。
想い、想われ、大切にしあう。そんな人と出会える確率は、どれほどのものなのだろうか。
だけど、私は出会ってしまったのだ。
渚詩帆、三十三歳独身。
派遣として、色んな会社を転々としている事務職だ。
そんな私の唯一と言える楽しみはネットゲームで、しぃと言う名前で遊んでいる。
『昨日はアイテム取得の手伝いありがとうね。その素材を使ってレベルを上げたから、今から配信するよ!』
通知音と共に表示されたメッセージを見て、私はスマホに飛びついた。
『今から行くね!』
それだけ返事をすると、すぐにネットゲームを中断して、配信サイトへ向かう。
ロイナルちゃんねる。
最近立ち上げられたチャンネルで、主にゲームの実況をしていて顔出しはしていない。登録者数も百人程度だ。
私が入れば、今日の配信はSNSで通知されていたようで、既に五人程が待機をしていた。
神楽:楽しみ!(はぁと)
はる:今日は何をするのかな?(笑)
7:期待してます~!
時間になるまでの待機画面では、既にコメントが書かれている。
しぃ:配信待っていました!
私も、それだけコメントすると、開始時間になるまで待つ。
ここにコメントしているのは、ほとんどが古参。というか、ロイさんがチャンネルを立ち上げる前からゲーム内で知り合って仲良くなった人達だ。
私自身は他の人とゲーム内で絡みはないし、コメントでも絡まないけれど、見ていれば名前だけでも憶えていくものだ。
だから、たまに現れる新規さんは、よく分かる。
「凄いなぁ」
好き、だからやる。
たったそれだけなのに、それが出来ない自分から見れば、ロイさんは尊敬に値する。
私には、そこまで物事を突き詰めて行うヤル気というものがないのだ。すぐに面倒くさくなってしまう。
副業でイラストやデザインをしているものの、営業を兼ねたSNS活動を続けられず、今や友人や知る人のみがたまに依頼してくる程度なのだ。
今となってはSNSなんて見ていないどころか、もう恐怖の対象と言って良い程にトラウマを持ってしまった。
だから、ロイさんの配信予告を見ていなかったわけだけど。
「こんばんわ。今日はボス戦を単体で狩ってみるね」
神楽:単体!?
はる:どんな装備!?
なすび:レベルは?
考えているうちに配信が始まり、コメントも増えていく。
乗り遅れた。そう思うけれど、装備とは昨日一緒に取ったアレかと、少し優越感に浸る。
「実は昨日、このアイテムを取ったんだ」
ロイさんが説明したのは、やはり昨日一緒に取ったアイテムで、私は思わず頬が緩む。
こんな顔が画面の向こう側にばれていない事が幸いだ。
きのぴー:すごーい!
はる:良いなぁ……。
なすび:それを取るだけでも苦労する(笑)
純粋にゲームを楽しんでいるだろう古参達は、アイテムを見ただけで沸き立つ。
しぃ:良かったね!
私もシンプルな感想を打ち込む。
わざわざ一緒に取ったと書く必要性もないし、それはロイさんが言わなければ言わなくて良い事だと判断しているからだ。
ここではロイさんが中心で、それを荒らす必要もない。ロイさんが楽しそうにしているのが一番なのだ。
神楽:私もそれ取りに行く!
7:私もう取った! どうやるの?(汗)
ロイさんがアイテムの説明をしていれば、次は使い方になっていき、コメントも次第に次を促す内容へと変わっていく。回答を終えれば、ボス戦だ。
ロイさんは今回、火力が高くソロでも戦いやすい双剣を選んでいる。
「あ~緊張する!」
楽しそうな声から一変して、緊張の走る声が聞こえた。これは反則だ。
ロイさんの、そんな声にも色気を感じてドキッと鼓動が高鳴ってしまう。
「うわっ! やば!」
ボスの一撃を上手くかわせなかったロイさんは、HPの半分程ダメージを受けてしまう。
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