卒業3
三日後、ベルナルド、プリシッラ、ロマーナがバルト邸を訪れた。
「バルト伯爵、お元気そうで良かったですー」
「これ、土産だ。良かったら食べてくれ」
「私は、栄養剤を持って来たわ」
応接室に通された三人は、口々に言った。
「今日はガブリエラはいないの?」
ロマーナが、部屋を見渡して聞いてきた。
「あいつは今、学園だ。……遅れた勉強を取り戻すのは大変だろうな」
「そうね。でもあの子、薬師になりたいって言ってたし、きっと頑張ってるわね」
「は?」
ロマーナの言葉を聞いて、マティアスは思わず声を出した。
「あら、聞いてない?あの子、一昨日私の店に来て、薬師になるにはどうしたらいいか聞いてきたわよ。人によって違うけど、私は十八歳で一般の学校を卒業した後、ベテランの薬師の元で四年間修業したから、私の経験を話したわよ」
「……知らなかった」
「そう。私、あの子に私の師匠を紹介したの。あの子も、学園を卒業したら修業しに異国に行くつもりみたいよ。そしたら、あの子に会えなくなるわね」
皆はその後楽しげに話をしていたが、マティアスは、無言で何かを考え込んでいた。
数日後、学園が休みの日だったので、ガブリエラはまたバルト邸を訪れていた。お茶を淹れた後リディオが部屋を離れたので、リビングでマティアスと二人きりになった。
「そういえば、ヨハン様はいらっしゃらないのですか?」
ガブリエラが、お茶を一口飲んで聞いた。
「あいつは、もう遺跡を発掘しに旅立ったよ」
「そうですか。また寂しくなりますね……」
二人共無言になり、しばらく穏やかな時間が流れた。
「……なあ、ガブリエラ」
「はい」
「お前が薬師になるつもりだと聞いたんだが、本当か?」
「……はい。私、思ったんです。マティアス様の貧血が無くなれば、私は必要なくなるんじゃないかって。そうなれば、寂しいなって……。でも、前向きに考える事にしたんです。血を提供する以外にマティアス様の役に立てる事があれば、その為に努力したいなって」
「そんな事考えてたのか……」
「はい。薬学に少し興味もありましたし」
「……俺がお前を必要ないと思う事は無いが……お前が薬師になると決めたのなら、応援するよ」
「ありがとうございます」
「それで……お前も、ロマーナみたいに修行の為に異国に行くのか?」
「はい。学園を卒業したら、すぐに旅立とうと思っています」
「そうか……何年くらい異国にいる予定なんだ?」
ガブリエラは、ぱちくりと目を瞬かせた。
「あの……異国にいるのは、二か月程度ですが……」
「え」
「二か月異国で修業した後は、この国に戻って、ロマーナさんの下で修業する予定なんです」
「ロマーナ……あの女!わざと期間を言わなかったな」
マティアスは、怒りを滲ませて呟いた。
「事情がよくわかりませんが、落ち着いて下さい。……あの、マティアス様に一つお願いがあるのですが」
「何だ?」
ガブリエラの話によると、学園の卒業式の後、王城の広間を借りて卒業パーティーがあるらしい。そして、パーティーには男女一組となって参加する決まりがあると言う。ちなみに、パートナーは学園の関係者でなくても良いとの事。
「……それで、マティアス様に……私のパートナーになって欲しいんです。……まだ五か月も先の事ですが」
ガブリエラが、少し遠慮がちに言った。
「……わかった。お前をエスコートさせてくれ」
マティアスは、嬉しそうに微笑んだ。
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